1章

第3話 「3年ぶりの君は、別人のようだった」

1章。


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「…音。湊音、起きて。ちょっと寝すぎだよ湊音ー」

その声を聞いて勢いよく体を押し上げる。周りを見渡すと救急箱が並んだ棚や、よく見る身長を測る機械がある。

それに、隣には知らない男子が驚いた顔をしてこちらを見ている。

「先生!起きました」

隣にいる男子が白衣を着た女性を呼んでいる。白衣を着た若い女性はめんどうくさそうに、ゆっくりこちらにきて繕ったような心配そうな顔をしている。

「あ、君大丈夫?」

「えっと…ここは?。俺はたしかさっきまで教室にいて…それから…」

なんだか頭が回らない。

「君、突然教室で倒れたんだよ。入学式から三枝(さえぐさ)くんが突然保健室に入って来た時はびっくりしたよ」

「矢野(やの)くんだよな。本当に大丈夫?いきなり教室に入って来て、それから突然叫んで倒れたけど」

「えっと…今は大丈夫」

どうやらここは保健室で、俺は教室で倒れたらしい。隣にいる男子は三枝(さえぐさ)という名前で、俺を助けてくれたみたいだ。そういえば教室で見た顔だ。

「多分、貧血だね。顔色もあまりよくないし、君まともな食事をとっていないでしょ。それなのに廊下をあんなに全速力で走るから」

最近は一人暮らしを始めてずっとインスタントラーメンばかりの生活だった。それに、昨日は限界まで春休みを終わらせたくなくて寝ずに粘っていたので寝不足でもあった。

「始業式はもう終わってみんな帰っている頃だろ。とりあえずこの後昼飯でも一緒に食おうぜ。お腹空いているだろ」

始業式はもう終わってしまったらしい。幸先の悪い形で俺の高校生活は始まってしまった。

起きてから時間も経っている。状況の整理がつき脳が活性化してきた。そうだ!教室には小雪がいたんだ。

「そんなことより小雪は?小雪が話しかけてきた気がするんだ」

小雪が昔のようにさっき話しかけて来たはずだ。それで俺は目を覚ました。

「小雪って。望月(もちづき)小雪(こゆき)さんのことか?」

そうだ。望月小雪。俺の大切なたった一人の存在。

「新入生はみんな帰っているし、この学校にいるのは私と三枝(さえぐさ)君、それと君だけだよ」

いや、確かに小雪は話しかけてきていた。意識ははっきりしていなかったけどあれは明らかに小雪の声だ。

「そんなはずない。さっき、小雪の声がしたんだ」

「えっと…君、やっぱりまだ少し体調が悪いんだよ」

そう言って保健室の先生は棚の中にある救急箱を開け、貧血に効く薬を渡してきた。

「とりあえず、今日は一旦家に帰って明日に備えてゆっくり休んだほうがいい。三枝(さえぐさ)君はこの後どうする?」

「俺もこのあと特に用事はないので一緒に帰ります。それに心配なので」

「わかった。バスを呼んでおくから、三枝君お願いね」

俺は訳のわからないまま三枝(さえぐさ)君につれられて裸足で保健室を後にする。


バスはすぐに来た。保健室の先生が気を利かせて呼んでくれていたらしい。車内は運転手を抜かせば俺と三枝君の2人だけだ。

「俺の名前は、三枝(さえぐさ)叶翔(かなと)。名前は?」

「矢野(やの)湊音(みなと)」

俺は名前だけをぽつりと言う。今は人と話す気分ではなかった。頭の中は小雪のことでいっぱいだったからだ。 

小雪は確かに俺を見て「誰ですか?」と言った。正直、冗談だと思いたい。でも、教室にいた小雪は昔と比べて話し方はおろか、まとっている空気感が全く違った。昔の小雪は、雨上がりに雲の隙間から差し込む太陽の光のように俺を照らしてくれる元気な女の子だった。でも、今日の小雪は、月明かりに照らされた水のように落ち着いた雰囲気をまとっていた。

小雪が小雪じゃないみたいで、まるで別人のようだった。でも、人はそう簡単には変わらない。3年間会っていなかったとしても、真逆のような性格にはならないはずだ。

それでも、あの綺麗な水色の瞳と透き通るような黒色の髪は間違いなく俺の知っている小雪だった。

明日、もう一度確認してみよう。俺の見間違いのはずだ。いや、そうであってほしい。

「じゃあ湊音(みなと)でいいよな。一緒のクラスだし1年間よろしくな!俺の事は叶翔(かなと)って呼んでくれ。」

「うん」

俺は、また無愛想にそう一言だけ返事をする。

「すごい勢いで教室に入って来た時はめっちゃびっくりしたぞ。最初は強盗とかが入って来たのかと思って、これは俺の出番きたとか思った」

「ごめん」

「あー、別に謝ってほしくて言ったわけじゃないんだ。ちょっとびっくりしただけ」

その後は、特に何も話さなかったら。俺たち2人を乗せた車内には、バスの走る音だけが響いていた。叶翔には気を遣わせてしまった。


バスが駅に到着して、叶翔に続いて下車する。

「俺の家この辺だからまた明日な!」

そう言って叶翔は走って行った。

「俺も今日はもう帰ろう」

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