第6話
6月7月に入れば、産卵ラッシュ。さらに忙しくなった。
「休みが欲しい」
「真ちゃん。生き物に休みがあると思う。ほらほら、翼が水槽の稚ガメに餌をやりに行ったわよ。二人っきりになるチャンスじゃないの、ふふ。真ちゃんの休みは翼の横にいるときでしょう」
「行かせてもらいます」
翼さんが慕う先輩スタッフの弥生さんは、真に協力的で、とても素敵なお姉さまだ。年は30歳とか違うとか、女でひとりで二人の子供を育てる母だ。おばさんなんて言った日には殺される。兎に角、パワフルな人である。
っと、そこに一本の電話が掛かって来た。弥生は電話に出ると驚き、慌てた様子で机に散らばっていた紙を引っ張り出しボールペンで書き記す。
何ごとかが起きたようだが、真はそそくさと愛しの翼のもとに行こうとして。
「ちょい、待った」
電話を切った弥生は真の腕を掴む。そして不気味な笑みを浮かべる。
ここのスタッフは優しい。でも、ウミガメが絡むと鬼だ。
──数がもっとも少ないオサガメの死亡漂着されたと漁師から連絡が来た。
「貴重な資料だ」
松崎さんと倉持さんは、解剖のために向かった。
「死体はものを語るんだ。ウミガメの生態や死因、それらを知ることで生きたウミガメに繋がる」
「そうなんですね」
「だから。真も勉強だ、来い」
あぁぁぁ。翼さんに一目でいい会いたかった。この忙しいなか有り難くも連れて行かれた。
◇◇◇
「ビニールですか」
オサガメの死因は悲しい事にクラゲと間違えて誤飲さらたビニール袋だった。
「こうやって死因解明していくことが、ウミガメを増やすための参考になる。わかったか真」
「へぃぃ」
真は若くても、もうヘロヘロだった。
少しでいい俺に休みを下さい。
なんだかんだと海洋保全センターに帰って来たのは7時を過ぎていた。
「おかえりなさい」
翼と弥生さんに出迎えられ、心に花が咲いた気分だった。
「あれ、今日は翼さん、早く帰れる日じゃなかったっけ」
「3人も解剖に向かわれたら、忙しくて帰れないじゃない。卵の記録とか大変なんだから」
「っと言いつつ、真ちゃんが心配だったのよ。ほら、もう真ちゃん今にも倒れそうなほどフラフラだからね」
「弥生さん」
えっ、本当。
嬉しさがこみ上げる。弥生は可笑しそうにゲラゲラと笑った。翼は「そんなんじゃないです」と頬を膨らませている。松崎さんは、疲れたっと言いながらディスクにどかりと座る。
「愛だの恋だの言える間は、体力あるよ」
「まっくだ」
同じく椅子に座る倉持さん。
「仕事に恋だの愛だの持ち出すのはよして下さいよ」
翼は決まり悪けに、二人のおっさん連中を窘めた。
「そうか。いいじゃないか。保護活動なんてデータを無視して、ウミガメを減らす連中よりも、求愛行動のために、こんなところまで、はるばる来てくれて手伝ってくれてる真君。その方が生物らしくて俺は好きだ」
「セクハラです」
「はは、そういえば所長は、ウミガメは食用として増やすことが目的で始めた保全活動でしたよね」
「そうだよ。儲かると思ったんだけどなぁ。カメは昔から海賊などにも食料とされていた。美味いし、タンパク源も豊富だから養殖でもするか、なんて甘く考えたが、まぁ増えないこと」
「未だにウミガメを食料として狩ってる所もありますからね」
「おっ。鳥野ちゃん。よく調べたな。偉いぞ」
ここでは、なんだか真は、マスコットキャラクターのような扱いをされて真は苦笑いをする。
こんなだから、翼からもなかなか弟扱いから抜け出せないのだ。
「動機がなんであれ、正義感だけではウミガメは増やせん。欲ってのは、ある程度ないと続かないものさ」
──ぐうぅぅ。
真の腹が盛大になり、皆で大笑いした。
待った無しだな。俺の腹の欲は。
「あっ。家のカップラーメン、底を尽きたんだった」
「あんた、そんなの食べてるの」
「俺の主食。安くていいだろ」
翼はげんなりとすると「トリィは、しょうがないなぁ」と小声で言い、帰りに真の部屋に来て簡単な野菜炒めとチャーハンを作ってくれた。
真の癒やしと休みは翼の隣なのだ。調子に乗って翼に近づいてみた。
「はい、これ以上は近づかない」
どこから出したのか50センチ定規を出しては境界線はしっかりと張られた。
うーん。前途多難なのか、男として見てくれるようになったのか。複雑な心境ではある。
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