第4話

──その頃の感情が蘇り、真は眩しそうに翼を見つめた。海面が太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。


「もう、恥ずかしいなぁ。その詩、他の人には言わないでよ」

「あのさぁ、俺。子供の頃から翼さんが好きなんだよね。あっ……」


 ポロッとつい本音が出てしまった。


「えっ」


 ポカンっと翼はして、ゆっくりと頭の中で考えてるようだった。一泊おき、


「冗談……」

「なわけないじゃん」


 スルーしようとする翼に牽制する。

 いや、もう逃がしたくないし。


 それに、置いていかないと言いつつ、翼は高校を卒業してあっさりと家を出ていった。こっちの気持ちも知らずに。


翼は告白を理解すると、息を飲み、あぐねるように口を開いては閉じた。


 そこに、ざばぁっと間近で波があがった。

「ザトウクジラだ」


 スタッフの誰かが声をあげた。全身で飛び上がり、体を反らさせて、背中から海面に落ちるブリーチングをザトウクジラは披露した。


 水飛沫が翼とまことの真上に掛り、一瞬で我に返った。


「写真。尾っぽの写真撮って」


 慌ただしくスタッフたちは船内を動き回った。ザトウクジラの尾びれは個体によって違う。個体を識別するため写真を撮る。


どれだけのザトウクジラが生息しているか頭数を統計するためだ。

 データーを終えて岸に帰る。ようやく真の告白を思い出したように翼は声を掛けてきた。


「あのさ、トリィ」

「聞かないよ返事は」

「はぁ、なんでよ」


 真は翼に背を向け両耳を塞いだ。


「どうせ弟のようにしか思ってないんでしょ」


 真が言うと、「うっ」と翼は言葉を詰まらせる。そんなこったろうと思い、真は振り向き際に、意地悪く笑う。


「だからさ、意識してよ」 

「えっ……。ってトリィ」

「俺ってば、男なんだよね」

「わかってるわよ」

「本当の意味で理解してない」

「って、ちょっと」


 ガタンっと調査船が陸に着く。真は腕を伸ばして本当に返事を聞かずに、ご機嫌に船を降りた。


 くくくっと経緯を見守っていた所長の倉持さんは「若いっていいねぇ」なんて呑気に言っていた。


「ちょっと、倉持さん、冷やかさないで下さいよ」


 やべぇ。バレた。


「まぁ、頑張れよ。青年よ」


 どうやら、ここにいる動機を知られても、所長に追い出されることはないようだ。


 よっしゃ。アピールタイムだ。


 鳥のように羽を広げて翼さんにアピールする。なんなら、ムーンウォークをしても構わない。できないけど。


 誤解が無いように言っとくが、ちゃんとウミガメの保全も大事だ。恋にうつつを抜かしているだけではないのだよ。

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