第25話 終幕
「はぁぁぁぁあ!!」
何も考えずにとにかく敵に向かって駆ける。
下手に長引かせればこっちがガス欠になってしまうのは明白だったからだ。
だが向こうもそれに気づいたのか、さっきのビームのような光を乱発してきた。
「そう簡単に!!」
玉藻を走らせながら、俺は結界を盾のように張る。
受け流すために斜めに張った結界によって弾いた光が、周りの建物に当たって蒸発させていく。
「やられてたまるか!」
光を弾きながら突き進んでいく俺に対して向こうは右腕を突き出す。
すると右腕が瞬く間に変形していき、最終的には剣のようになった。
そしてそのまま右手を構えつつ、こっちを迎え撃つ姿勢を取る。
こっちも刀を二本造り出して大きく振るう。
向こうの右手といわゆる鍔迫り合いの状態となり、正面からぶつかり合う。
「こ、の!」
こっちも押し切ろうとするが、向こうのパワーも強くて中々上手く行かない。
「足元がお粗末じゃな!」
すると玉藻が自らの意思で尻尾を動かし、敵の足を絡めとろうとする。
だが向こうは素早く脱出すると、一度大きく距離を取る。
「……手伝わないんじゃなかったのか?」
「例外というものがあろう。それにアレの存在は癪に障る」
玉藻の緊迫した声を聞いて俺はもう一度敵を観察する。
見た目は一つ目のロボットそのままだが、俺でも分かるような異質さが感じれる。
だが初めにあった手長足長や水虎、そして玉藻といった妖怪とも違う気がする。
まるで別次元の存在のような、そんな異質さだった。
「叶夜」
考えの渦に捕まっていた俺を引き上げたのは、その玉藻の一言だった。
思わずハッとしてると、玉藻が諭すように話しかけてくる。
「しっかりせい。アレが何者かは全てが終わった後に考えればよいことじゃ。今は生き残る事だけを考えよ」
「……そうだな。すまん」
「ん、それでいい。さっさと片づけて家に戻ろうかのう」
玉藻の一言で改めて気合を入れ直すと、俺は再び怪機を前へと進ませる。
だが向こうもただで近づかせる気はないらしい。
先ほどより威力を増した光を、乱射ではなく一発一発的確に放ってくる。
何とか今は結界で防げているが、これが向こうの全力ではない以上は油断は出来ない。
「叶夜! しかっかりと防いでおれよ!」
玉藻は使える三つの尾を巧みに操り、まるでムチのようにしならせながら敵に襲いかかる。
向こうはアクロバットな動きで無軌道な尾を回避していくが、当然砲撃は止まる。
その隙をついて一気に距離を詰め、持っている刀で切りつける。
結果として数撃向こうに傷を付ける事には成功するが、それでも致命打を与える事は出来なかった。
「くそっ! 浅かったか!」
「もう一度じゃ叶夜! どのような者じゃろうと限界はあるはずじゃ!」
その言葉を受けて再び攻撃を再開しようとするが、その前に向こうの右手によって持っている刀が粉砕される。
「っ!」
急いでもう一度造り直そうとすると、向こうの光線が怪機状態の玉藻の左肩を貫く。
「痛っ!!!」
当然その痛みは感覚を共有している俺にも伝わり、左肩が焼けるように痛む。
悲鳴を上げまいと歯を食いしばっていると、敵の右脚で腰部に蹴りを入れてくる。
大きく吹き飛ばされた俺たちは、多くの建物をなぎ倒しながら止まる。
「叶夜!」
「分かって、る! いま、立ち上が……っ!」
左を庇いながら立ち上がろうとする俺の目に飛び込んできたのは、八重を襲った時より大きな光線を放とうとしてる敵の姿だった。
(まずい!)
急いで結界を張ろうとするが、痛みのせいで上手くいかない。
その間にも向こうの光はどんどん巨大になっていき、怪機でも一撃でやられてしまいそうな程になる。
(クソッ……こんな、所で……!)
「叶夜!!」
諦めが脳内を過る中で、巨大な光線がついに放たれ真っ直ぐに迫って来る。
動きたくても動かせない中、その光をただ見てるしかなかった俺の目の前に一つの影が飛び出してくる。
「八重!?」
「やらせない!」
半壊している鬼一を操り、八重は巨大な結界を張ってみせる。
光線が収まった後には結界はかなりヒビが入っていたが、それでも俺も八重も生き残っていた。
「八重! 大丈夫なのか!?」
「あんまり大丈夫ではないわ、ね。頭を派手に打っているから。……次は防ぎきれないわよ。急いで決めましょう」
「っ……了解!」
痛む左を使いながら立ち上がると、八重の横に並ぶ。
向こうも八重が立ち上がってくるのは想定外だったのかしばらく様子を見ていたが、二人とも傷を負っているのを確認すると左腕も剣状に変形して襲いかかって来る。
「舐めないで!」
残った鬼一の左手で刀を握ると、八重は向こうの猛攻を捌いていく。
だが左一本では限界だったのか、やがて刀が弾かれてしまう。
その隙を好機と見たのか、敵は一気に止めを差そうとする。
「もらった!」
だがそれが逆に隙となり、そこを玉藻の狐火をぶつける。
さっきとは逆に吹き飛ばされた敵は素早く立ち上がると、すかさず光線による遠距離攻撃を開始しようとする。
「同じ手は何度も喰らわない! 牛頭! 馬頭!」
吹き飛んだと同時に呼び出していた牛頭と馬頭の攻撃に、向こうも流石に動揺したのかギリギリで二匹の攻撃を受け止める。
ブモォ!!
ヒヒン!!
まだ回復しきっていないだろう傷だらけの装甲ながら、二匹は雄叫びを上げながら名も分からない敵に攻撃を加えていく。
向こうも防いではいるが、それでもあの二匹にはパワー負けするのか距離を取り始める。
だが逃げた先には八重が既に動きを止めるトラップを仕掛けていた。
俺は一切の動きを止めた敵の正面に移動すると、刀を構えながら全速で突進していく。
だが今にも敵は動きを再開させようとしていて、このままでは間に合わないだろう。
だが
「玉藻!」
「ええい! どうなっても知らんぞ!」
玉藻はそう言うと、自らの足に狐火を発生させる。
するとまるでロケットブースターのように加速していき、目にも止まらぬスピードので突進していく。
そして敵の胸部に刀を突き立てると、その勢いのまま跡を残しながら押し出していく。
止まった頃にはかなりの距離になっており、刀もめり込んでいた。
「はぁ……はぁ……」
深い息を吐きながら俺はめり込んだ刀を引き釣り出すと、敵は豪快に音を立てながら倒れていく。
「叶夜。終わったのう」
「……本当にもう終わりだよな? 残ったのが合体して襲い掛かるとかないよな?」
「安心して。本当にもう終わりよ」
そう言いながら八重は牛頭と馬頭と共に近づいてくる。
そこには警戒感もない女子高生としての八重の姿があった。
「そう、か……。それは……よかった……」
「叶夜くん!? 大丈夫!?」
「安心せい。気が抜けただけじゃろう」
玉藻の言葉に納得しながら、残った意識でこれからの事を考える。
玉藻の事や八重の事を、だ。
だけどその意識も段々と薄まっていき、最終的には。
(ま、なるようになるだろう)
そんな事を考えながら、俺は目を閉じる。
『まさかこのようになるとはな。まあよい、所詮座興よ。戻るがいい___』
意識が途絶える前に、そんな声を聞いた気がしながら。
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