第24話 意地
玉藻の掛け声と同時に、八重が札に呪力を込め始める。
向こうもそれを察しってか、八重の陰陽機に向けて銃口を向ける。
だが。
「させるかよ!」
そうなるのは想定済み。
俺は玉藻の両手だけではなく、三つの尾にも刀を握らせて突撃する。
当然奴らの標的は八重ではなく俺になるが、それで構わない。
今の俺の役割は、八重の術が発動するまで守る事である。
構えや何も関係なく刀を振り回す俺に対して、奴らは距離を取って攻撃をし始める。
「っ! このぉ!」
容赦なく浴びせられる弾幕を可能な限り刀で弾くが、やはり全部を弾く事は出来ず玉藻の鉄の身体に掠ってゆく。
当然その痛みは俺にもフィードバックされるため、かなり痛みが響く。
だがここで引けば後はないのは乏しい頭でも理解できる。
だからこそ。
「引く訳にはいかない!」
弾丸が当たるのも無視して、俺は再び突撃を再開する。
向こうもそれに合わせて引いていくが、構わず前進し続ける。
とにかく敵の攻撃を俺に集中させればいい。
その一心で合計五本の刀を振り回し弾丸を弾きながら前進していると、どうやら向こうの弾切れを起こしたようで弾幕が止まった。
「チャンスじゃ! 陰陽師娘! そっちはどうじゃ!?」
「準備完了よ! 何時でもいける!」
「叶夜! 奴らを一か所に集めるのじゃ!」
「了解っと!」
ちょうどよく向こうは八機とも短剣を持ってこっちに接近戦をしようと近づていいる。
俺は玉藻の二つの尾を伸ばし、囲い込み漁の如く広げる。
奴らもそれに気づいて動きを止めるが、もう遅い。
一気に尾を引き寄せると、向こうの陰陽機は団子状態で一塊となる。
「叶夜くん!!」
「叶夜! 跳べ!」
「言われなくとも!」
奴らを一塊にしたと同時に、玉藻を大きく跳躍させる。
「八重!」
その言葉が届いたかどうかは不明だが、俺が跳躍すると同時に八重は呪力を込めた札を投げつける。
すると大きな地震の如く地面が揺れると、まるで初めからそこにあったかのように巨大な穴が空いたのだ。
当然そうなると陰陽機たちはその穴に吸い込まれるが如く、底に落ちていく。
派手な音を立てながら地の底に落ちた奴らであったが、すぐさま立ち上がろうとする。
「叶夜。意識を集中させよ、炎を自分の一部じゃと思え」
当然俺たちもこの程度で勝てるとは思っていない。
だからこそ玉藻にアドバイスを得ながら、俺は意識を右手に集中させる。
すると、さっきまでとは比較にならない事が分かるほどの炎が右手に現れる。
そしてその炎を、下にいる奴らに向けて投げつける。
「「《狐火・白菊》!!」」
炎は瞬く間に燃え上がり、洪水のように広がっていく。
八機の陰陽機は藻掻くように動き回るが、やがて一機また一機と動きを止めていく。
派手な土煙を上げながら地面に着地すると、八重がゆっくりと近づいてくる。
「……やったわね」
「はぁ……はぁ……。ああ、勝った」
しばらくの間燃え続ける大地を見ていた俺と八重だったが、玉藻が口を開く。
「で? どうする気じゃ陰陽師娘? またやり合う気か?」
「……」
八重の答え次第では、すぐにでもまた戦わないといけない。
緊張で唾を飲む俺に対し、八重は疲れたような声を出しながら気の抜けた返事を返す。
「無理でしょうね、この状態だと。そっちもこっちも戦えるような状態じゃないでしょ?」
確かに八重の言う通りお互いさっきの戦いで既にボロボロだ。
さっから使っている札だって無限ではないだろうし、玉藻も装甲には数限りない傷が出来ている。
「見逃してくれるのか?」
「あくまで保留よ、保留。……それに認めたくはない事だけど、今のところ玉藻の前も無害と思われるしね」
「ま、何はともあれ一旦閉幕という奴じゃな」
玉藻の言葉に力を抜く俺。
八重と八機の陰陽機との連戦はかなり堪えたようで、体が既に悲鳴を上げているようだった。
「はぁ。それにしても本当にこの陰陽機は一体なんなのよ。無人機が成功しただなんて、噂にも聞いた事ないのに」
「それは追々にでも他の陰陽師が調べるんじゃろ? 少しは息を抜かんと頭でっかちになるぞ」
「……」
「? どうしたんじゃ?」
「いや、その。まさか気を使われるだなんて思ってもみなかったから、ちょっと驚いて……」
まあ確かに。
玉藻からしたら陰陽師は未だ敵な訳だし、正直俺もそんな言葉を掛けるだなんて思わなかった。
そんな事を思っていると、玉藻は呆れたような声で説明をしだす。
「我からすれば今を生きておる人間なぞ全てが年端もゆかぬ赤子のようなものよ。他の妖怪がどう思っておるかは知らんが、赤子のやる事に一々腹を立てる事もあるまい」
「……」
「おお。玉藻が凄く大妖怪のような発言をしている」
「普段はそうではないと言いたげな発言はするでない! どこからどう見ても完全無敵の大妖怪じゃろうが!」
玉藻が念話で騒ぎ立ててしまい、脳内が痛く感じる。
すると、八重のクスクスとした抑えた笑い声が聞こえてきた。
「……じゃあ私は引き上げるわね。この件を上に報告しないといけないし」
「八重。……ありがとう」
「この先どんな風になるかは分からないけど、これからも武運を……っ! 伏せて!!」
「え?」
その言葉の意味を考える頃には、俺は八重の陰陽機に突き飛ばされていた。
……そして光が八重の陰陽機の右半分を吹き飛ばしたのを、俺はその目で見たのだった。
「八重!!」
「……だい、じょうぶ、よ」
俺の呼びかけに、八重からの返事が返ってくる。
しかしその声は非常に弱弱しく、意識を保つのがやっとの様にも聞こえた。
「叶夜、くん。……ま、え」
「っ!」
言われるがまま言われた方向を見た先には、地面に空いた穴の中から顔を出していた陰陽機の姿があった。
あらゆる箇所が溶けていながら、穴から這い上がろうとしている姿はまるで本物の亡者のよう。
「玉藻。あれは……」
「どうやら一機。隠し玉がおったようじゃな」
玉藻が警戒感を露わにした声で俺に伝えてくる。
段々と溶けたパーツが外れていき、やがて現れたのは黒塗りの陰陽機。
いや、あれを陰陽機と言っていいかは判別が付かなかった。
素人目でも分かる禍々しさ、それが手に取るように分かるのだ。
「あれは……一体」
「分からん。じゃが一つだけ分かる事がある。あれは、この世全ての者にとっての害悪じゃ」
「この世……全ての……」
スケールが大きすぎてイマイチしっくりと来ないが、俺も一つだけ理解出来る事がある。
(アイツを、このまま放置しちゃいけない!)
「……玉藻。まだ行けるよな」
「当然じゃろ? 叶夜の方こそ大丈夫か?」
「勿論」
当然やせ我慢だ。
体中が痛い上に、頭はガンガンと痛い。
だが、意地の張り所はここだと体が叫んでいる。
深く、深く深呼吸すると自分を支えるように叫ぶ。
「行くぞ!」
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