第23話 疑問
八重がこちら側についた事で、向こうに傾いていた戦況がかなり動いた。
「は!!」
気迫の籠った声と共に、札を敵の陰陽機に投げつける八重。
当然向こうも棒立ちな訳も無く回避する行動を取る。
「そこ!」
だがバラバラになったところを待ち構えていた俺が、刀で切りつける。
すぐさま他の機体も援護に回ろうとするが。
「やらせない!」
八重が再び札による攻撃を開始し、近づかせない。
「叶夜くん! 一度引いて! 一撃当てたら離脱。それを心得て!」
「了解!」
言われた通り攻撃もそこそこにして、俺は八重の近くに戻る。
それがさっきから繰り返されている戦闘の様子だった。
八重が敵を切り離しながら、俺が所謂ヒット&アウェイで敵を消耗させていく作戦だ。
「……う~む?」
だが順調に事が運んでいるようにも見えるが、玉藻の方は何か納得がいってないらしい。
「何だよ玉藻。言いたい事があるならハッキリ言ってくれ」
「……のう陰陽師娘」
俺の言葉を受けてかどうかは分からないが、玉藻は八重に話かける。
八重の方は少し警戒したように答える。
「何よ? 言っておくけどアナタと仲良く会話する気は」
「向こうの陰陽機、少し動きが変ではないか?」
「……どういう所が?」
玉藻の言葉に何か感じる所があるのか、八重はその言葉に耳を傾ける。
「決められた手順を守っているような、そんな違和感があるんじゃが。どうも人間を相手にしておる気にならん」
「だったら機械制御とでも言うのか?」
俺が思った事を口にするが、それは八重によって否定された。
「それは間違いなく違うわ。陰陽機というのは陰陽師の呪力によって動いているのよ。勿論現代科学も使ってはいるけど、完全な機械制御な陰陽機というのはあり得ないわ」
「そうなのか」
意外な所で陰陽機の動く理由を教えて貰ったが、玉藻の方は納得していないようでさらに言葉を重ねる。
「じゃがあ奴らの動きに人間的な動きはない。叶夜の言う通り無人かも知れんのう」
「だから機械制御だなんて無理なのよ? それなのにどうやって」
「そこでもう一つの質問じゃ。式神を使っての陰陽機の遠隔操作、可能か?」
「……」
この玉藻の質問に対して、八重は黙ってしまう。
その様子は答えに迷うというよりは、答えるべきかどうかを迷っているようだった。
「陰陽師娘にも事情があるじゃろうが、ハッキリさせておかなければいかん。で? どうなんじゃ?」
「……理論的には可能よ。というより現在研究を重ねているところだと思う」
八重は悩みながらも問いかけに対する答えを口にする。
だが続けて八重は言葉を口にする。
「けどあり得ないのよ。陰陽機を動かすとなると相当高位な式神を呼び出さないといけない。それに指示を与えながら、式神と陰陽機分の呪力を使うだなんて精神が持つわけがないの」
「……ほう」
「だから無人という訳がある訳……ないんだけど……」
最後は自身無さげに言う八重。
持っている知識からすれば、無人機というのはあり得ない。
だが目の前の敵は、どうしても人間相手とは思えないという気持ちの表れだろう。
事実こうして話している間も、向こうは距離を取ったまま動こうとしていない。
「じゃがこのままでは埒が明かん。今は拮抗しておるが何時あ奴らの増援が来ても可笑しくはない」
「それは……」
実際玉藻の言う通りではある。
相手が有人にしろ無人にしろ、向こうがこのままという可能性は低い。
打てる手があるなら、早めにやるべきだ。
「玉藻。もし相手が無人だったら、何か打てる手があるのか?」
「いや? 無人じゃったら叶夜も遠慮なく戦えるじゃろ?」
「今でも結構全力なんだけど」
だが確かに今まで人が乗っているという前提の元で戦っていたから、無意識に遠慮していた所はあったかも知れない。
だけどもし予想が外れて人が乗っていたら。
そう考えると、やはり迷いが出る。
「……仕方ないわね。この際ハッキリさせましょう」
八重はそう言うと、札を一枚取り出す。
「八重、それは?」
「人を麻痺させて動けなくさせる札よ。何かに憑かれたりした人の為の札なの」
「それをあ奴らに貼って動けなくなれば人が乗っておる。動けば無人。というわけじゃな」
「何気に恐ろしい札を」
「ふふ。おまけにこの札、効果が二日も続くから使い勝手がとても悪いのよ?」
そんな風に茶化しながら、八重はさっきとは別の札たちを相手に向かって投げつける。
氷や炎の弾が降り注ぐ中、向こうは再びバラバラになってそれを避け始める。
「捕まえた!」
その中の一機を俺が玉藻の尾を巻き付かせて動きを止める。
そしてそのまま近づき、さっきの札をその陰陽機に貼り付かせる。
(どうだ?)
答えはすぐに出た。
その陰陽機は尾による拘束を振り解くと、短刀を使って攻撃してきたのである。
「っ!」
間一髪の所で刀で受け止める事が出来たが、次々に他の陰陽機がやって来ている。
「伏せて!」
八重の声が響いたと同時に言われた通りに玉藻の体を伏せると、頭上を巨大な火球が通り過ぎていった。
その火球に飲みこまれた陰陽機を見ながら、俺は八重の元に戻る。
「すまない」
「このぐらいは、ね。それにしても本気で驚きよ。まさか本当に無人だなんて」
札が貼られた陰陽機も含め、敵は再び銃口を向けながらこっちの様子を窺っている。
判明して言うのもあれだが、その動きからは確かに人らしさは感じられない。
「八機中一機のみが無人機とは考えられん。恐らく他の七機も同じじゃろうな」
「ええ。……」
「八重。陰陽師として気になる事は多々あるだろうけど、今は生き残る事を考えよう」
「……そうね。その通りだわ」
「うむ。ところでじゃが、この場をひっくり返すようないい手があるんじゃが」
「「?」」
しばらくの間、玉藻の言ういい手を聞いていた俺と八重。
聞き終わった後の俺の第一声は。
「それ、俺の負担が多くない?」
であった。
「なんじゃ文句でもあるのか? それとも叶夜は陰陽師娘に危険な役目をやらせる気か? 鬼畜じゃのう」
「大妖怪に言われたくねぇし」
「叶夜くん。無理する必要は……」
八重が心配してか確認を取って来るが、実際のところ玉藻の案に乗る以外にいい手は思いつかないのが現状だった。
「いや、文句を言いたかっただけだ。大丈夫、やれる。……そっちこそ大丈夫なのか?」
「かなり呪力を使うから大丈夫とは簡単に言えないけど、叶夜くんが頑張るのに弱音は吐いてられないわね」
覚悟を決めた声でそう返す八重の様子に、こっちも気合を入れ直す。
確かに俺への負担は大きいが、八重の方も相当の覚悟を持ってこの案に乗ってくれている。
だったら。
(やるしかないぞ! 朧叶夜!)
「さて、二人ともよいな。タイミングは我が指示する。一歩間違えば巻き添えを食らう事は覚悟せい」
「分かってる」
「ええ」
玉藻の言葉に頷きを返す。
同じく八重も返事を返して、二人の声が重なりあう。
それを確認して、玉藻は声を張り上げる。
「では作戦……開始じゃ!」
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