第22話 乱入

「そんな! 一体どうして!?」


 弾幕を結界で防ぎながら、八重が焦った声を漏らす。

 どうやら八重にとっても予想外な展開のようだが、この状況は考えなくてもマズい事ぐらいは分かる。

 やがて撃ち終わったのか、弾幕が途切れると八機ほどの緑色の陰陽機がこちらに銃口を向けているのが分かった。

 八重一人でも苦戦していたのに九対一だと完全に勝ち目が無くなってしまう。


「どうしたら……」

「まあ落ち着け叶夜。あ奴らはただの陰陽師では無さそうじゃぞ?」

「え?」

「考えてもみい。あ奴らは陰陽師娘ごと我らを撃った。陰陽師の世界が如何に腹黒かろうと堂々と身内を撃ったりはせん」

「陰陽師についてはよく知らないからコメントできないけど、つまり何が言いたいんだ? 玉藻」

「簡単じゃ。要するに」


 玉藻は一拍置くと、真剣な声で俺に説明する。


「他の陰陽師を消してでも、我を消したい何者かの手勢。という訳じゃ」

「!!」

「さて、そうなると陰陽師娘は単なる巻き添えな訳じゃが。……どうするかの? 叶夜」

「……八重に念話って繋げられるか?」

「当然じゃろ? 待っておれ今繋いでやる」

「よし。……八重、聞こえるか?」

「叶夜くん!?」


 こっちから話しかけた事に少し動揺を見せた様子の八重だったが、構わず質問する。


「向こうの陰陽機と連絡って取れるか?」

「……無理ね。何度も呼びかけているけど、応答する気はないみたい」

「そうか。じゃあ八重はそのまま逃げろ」

「突然何を言っているのよ!」

「見境なく攻撃してきても、玉藻曰くアイツらも目的は俺たちだ。お前まで巻き込まれる必要は無いだろ?」

「っ! だからって……」


 言葉尻も弱く八重が言葉を漏らすと、玉藻が強めの語気で言い放つ。


「陰陽師娘。邪魔じゃどけ」

「なっ!?」

「あ奴らが何にせよ、陰陽師である事は間違いない。同胞を討つ覚悟がお主にあるのか?」

「そ、れは……」

「それともあ奴らと共に我らを討つか?」

「しないわよ!」


 怒った八重の叫びに対し、玉藻は平坦な声で返す。


「我らともあ奴らとも戦わんのじゃったら、ただの邪魔。どこかへ消えておれ、話は以上じゃ」

「……」


 黙り込んでしまい陰陽機も動かさない八重を背に、俺はさっきからこっちに銃口を向けたままの八機と向かいあう。


「玉藻」

「なんじゃ?」

「八重の事、ありがとう」

「本心を言っただけじゃ、別に礼を言わんでもいい」

「そうか」

「うむ」


 そう会話を終えると俺は刀を二つ造り出し、二刀流スタイルになる。

 こっちが武器を構えたのを見てか、緑の陰陽機たちが引き金に指をかける。


「ふぅ。……行く!!」


 一息入れて、一気に突撃を開始する。

 当然向こうも、それに合わせて銃を乱射し始める。

 結界を張りながら突撃し、八機の内一機に迫る。


「もらった!」


 そう言いながら刀を振り降ろすが、向こうも短刀で受け止める。


「っ! まだだ!」


 受け止めた事で横ががら空きになったのを確認すると、すかさず蹴りを入れて向こうの体勢を崩す。

 そのまま二刀で串刺しにしようとするが、他の陰陽機が倒れている仲間にお構いなしに銃を乱射する。


「クソッ!」


 弾幕に押され一旦引くと、銃声が鳴りやみ倒れていた陰陽機も立ち上がる。


「俺たち倒せれば仲間が何人死んでもいいって訳か」

「大した覚悟じゃな。しかし……」

「どうした玉藻?」

「……いや、何でもない。それより前を向いた方が良いぞ叶夜」


 言われた通りに前を向くと、緑の陰陽機たちの半分が銃をしまい短刀を持って突撃してくる所であった。


「うおっ!」


 何とか初撃を刀で受け止めるが、敵味方お構いなしの銃撃によって少しづつではあるが傷ついてしまう。


「痛っ!!」

「叶夜。無理せず逃げるのもありじゃぞ?」

「そうしたいのは山々だけ、ど!」


 別方向から短刀を構えての突撃を、もう一本の刀で受け止めながら叫ぶ。

 そして今にも突撃しそうな二機の陰陽師の足を玉藻の尾で絡めとり、転ばせる。


「まあ。そう簡単には行かんようじゃな」


 玉藻がそう言う間にも弾幕は激しくなっており、受け止めてる腕も感覚が無くなりつつある。

 転ばせた相手も既に立ち上がっていて、その短刀でこっちを切りつけようとしている。


「簡単にやらせるか!」


 そう叫びながら、俺は玉藻の周囲に炎の渦を作り出した。

 近づいていた四機は炎を警戒して離れていき、銃を撃っていた他の陰陽機と合流する。


「はぁ……はぁ……」

「息が上がっておるぞ、叶夜」


 八重との戦いの時点でかなり疲れていたところに、さらにこの状況。

 正直泣き言の一つでも言いたいところではあるが、残念だが聞かす相手もいない。


「さて本気でどうするかの。我が本気を出せば一瞬じゃが、それじゃと叶夜の体がもたん」

「……すまん」

「謝る事でもなかろう。叶夜はようやっとる。じゃが三尾の状態ではここらが限界というだけの話じゃ」


 玉藻はそう言うが、もっと俺が力を引き出せていれば苦戦する事も無かったと思うと悔しさを感じる。

 だがそんな俺の心情とは無関係に、再び八機の陰陽機たちは銃口を俺に向けている。


「結界を……っ!」

「叶夜!?」


 結界を張って防ごうとするが、ふと立ち眩みを起こしてしまう。

 玉藻の慌てたような声が頭に響く中、銃声と共に弾丸が発射される。

 さっきまでとは違い、守るものは何も無い。

 運が良くても激痛。

 悪ければ……。


(最後がこれじゃ、恰好つかないな。……ごめん玉藻)


 心の中で玉藻に謝る俺の耳に、玉藻とは違う声が響いた。


「やらせない!!」


 突如ある影が、玉藻と陰陽機たちの間に割って入る。

 するとこっちも入るような結界を張ると、弾丸を防いだのだ。

 ……そしてこの場でこんな事が出来るのは、一人しかいない。


「八重」

「大丈夫!? 叶夜くん」

「大丈夫だけど……。いや、その前にお前」

「陰陽師娘。自分が取った行動の意味、分かっておるじゃろうな」


 そう。

 これは言い訳のしようもなく、陰陽師という組織に対する裏切り行為である。

 なのになんで……。


「いきなり弾丸を撃ってくるような奴らよ? 私も口封じに消される可能性だってあるわ。それに」


 八重は一拍置くと気迫の籠った声で言い切る。


「私は母に人を大事にと教わってきた。今逃げたらそれに背く事になる。……それだけは、絶対にしたくないの!」


 札を取り出しながら投げつけると、緑の陰陽機たちはそれぞれ散って回避する。

 すると投げつけた札が爆発し、辺り一帯を爆炎で包む。


「玉藻の前! 言いたくないけど共闘よ! 言っておくけど叶夜くんの為だからね!」

「じゃ、そうじゃが? どうする? 叶夜」

「あそこまで言われたら、いいやとは言えないだろ」


 そう言って俺は八重の陰陽機と並び立つように、玉藻を移動させる。


「後で後悔するなよ八重!」

「生き残るわよ! 一緒に!」


 こうして、俺と玉藻、そして八重の戦いが始まった。

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