第21話 知恵

「はぁぁぁ!!」


 攻められてばかりだったさっきとは違って、今度はこっちから八重に突き進んで行く。

 当然それを左右に控えている牛頭と馬頭が許す訳も無く、俺の前に立ちふさがる。

 だが、こっちも無策で突っ込んでいる訳ではない。


(今だ!)


 タイミングを計ったところで、玉藻の妖術で煙幕で二体の視界を塞ぐ。

 どうやら効果有りだったようで、牛頭と馬頭はこっちを見失ったようである。

 そんな二機に対して俺は武器を妖術で造り出す。

 刀よりも重く硬いであろう太刀を強くイメージする。

 そうして現れた太刀を両手で持ち、俺は大きく二機に向けて薙ぎ払う。


ブモォ!!

ヒヒン!!


 太刀の直撃を喰らった二機は、悲鳴のような上げながら後方に下がる。

 ここでもう一撃行きたいところではあったが。


「風よ!」


 八重が札を投げると、札から強風が吹きつけて煙幕を吹き飛ばす。

 それを見て俺は無理に突撃する事無く、一度距離を取る。

 向こうも追撃させる事なく、こちらの様子を窺っている。


(何とかあの二機に損傷は与えたけど、動けなくなるほどじゃない。もっと相手の予想を上回らないと……)


 そんな事を考えていると、八重の方から動き出した。


「この量! 躱しきれるとは思わないでね!」


 先ほどまでとは段違いの数の札を投げつけてくる八重。

 それらは火や氷の弾となり、俺に遅いかかる。

 確かに八重の言う通り、これらを回避するのは難しいと思う。


「だけどこれなら!」


 そう叫び返しながら、俺は結界を張る。

 それもただの結界ではなくて、炎を纏わせた炎の結界だ。

 大量の弾たちは、その炎の結界に防がれて俺に届く事はなかった。


「今よ!」


 だが向こうもそれは織り込み済みなのか、既に牛頭と馬頭が間近まで迫っていた。

 確かにあの二機なら炎の結界だろうと破ってくるに違いない。


(だったら!)


 俺は炎の結界の領域を広げて、向かってくる二機にぶつけた。

 牛頭と馬頭はこっちの不意打ちに対処する事ができず、結界によって弾かれお互いの距離が離れる。


「今が好機じゃぞ!」

「分かってる!」


 敵が連携して手強いなら、距離が離れている今が各個撃破のチャンスだった。

 俺は素早く結界を解くと、太刀を手に取り牛頭へと突撃する。


ブモォォォォ!!


 俺の考えに気づいてか、牛頭は雄叫びを上げながら持っている棍棒を振り回す。

 力任せの攻撃ではあったが、パワーが尋常ではないので太刀で受ける他なかった。


「やらせない!」


 そこに八重も刀を構えて牛頭の救援にやって来た。

 既に二体一。

 ここに馬頭がやってくれば、袋叩きにあうのは明白である。

 だが。


(そういう隙が一番危ないんだよ八重!)


 八重と牛頭の攻撃を結界を使って受け止めると、俺はそのまま妖術で弓と矢を造り出す。

 狙いは完全に無防備となっている……。


(馬頭をここで仕留める!)


 弓道など習った事は無いため完全に見様見真似で矢を弓で引く。

 そして放たれた矢は真っ直ぐ進んで行き馬頭へと向かう。

 馬頭は両腕で体を守りながら、こちらへと向かってきている。

 たかが矢の一本、防ぎきれるという自信から来る行動だろう。


(だけど甘いぜ)


 その矢は妖術で造られたものである。

 つまりはある程度本来の性質とは違うものも造れるのである。

 そして今回、矢に込めた性質とは。


ヒヒン!?


「馬頭!?」


 爆発である。

 馬頭は自身に当たったと同時に、大爆発を起こした矢の衝撃に悲鳴を上げる。

 爆発の直撃に馬頭の装甲にはヒビが入り、血が所々から流れている。

 だが流石と言うか、斧を地面に突き立て馬頭は倒れるのを拒む。


「もらった!!」


 当然最大の好機を逃す気もなく、俺は大きく跳躍して太刀を手にする。

 そして落下の勢いのまま太刀を馬頭に振り降ろす。

 馬頭も斧で受け止めようとするが、勢いを付けた太刀には敵わず天辺から真っ二つになる。

 断末魔を上げる事もなく、馬頭はそのまま札へと戻って行く。


「よし!」


 ガッツポーズでもしたいところではあったが、まだ倒すべき相手は残っている。


ブモォォォォ!!


 休む間もなく結界を破った牛頭が棍棒を振り回しながら突撃してくる。

 その後ろからは八重が札を準備しているのが見えた。

 牛頭の攻撃を必死に受け止めながら八重への攻撃を窺うが、今回は向こうの方が行動が早かった。


「強化を!」


 そう唱えながら札を牛頭に貼ると、牛頭の動きが明らかに速くなり、さらにパワーも上がっている。


「っ! こんなのも有りなのか」

「まあ陰陽師にとって式神の強化は基本じゃろうな」


 玉藻がそう軽く言うのに対し、こっちは牛頭の攻撃を捌くので精一杯だ。

 その上、八重も札で攻撃に参加し始める。

 さっきの火や氷の弾だけでなく、風の刃や爆発する札もこっちに投げつけてくる。

 結界を張るような余裕もなく、攻撃の余波に晒されながらも必死に頭を回す。


(こうなったら一か八か、で!)


 牛頭の攻撃の隙を狙って刀を造りだすと、それを八重に投げつける。

 だがその攻撃は、八重自らの手によって弾かれるのであった。


「今のが起死回生の一撃だとしたら、もう終わりが近いって事かしら?」

「……どうかな」


 そんな会話をしている間にも攻撃の手は止まず、ついに玉藻の装甲にも多少ではあるが傷が入る。

 だが、そんな中でも俺は集中して好機を待つ。

 そして牛頭の攻撃によって手にしていた太刀がついに折れる。


ブモォ!!


 それをチャンスと見たのか、牛頭は棍棒を振り上げてトドメを差そうとする。

 と同時に八重の慌てたような声が響く。


「牛頭!!」


 八重がそう叫んだが、時は既に遅かった。

 先ほど投擲した刀が、牛頭の背中に深々と刺さっていた。


ブ、ブモ……


 流石に致命打だったのだろう。

 足元がおぼつかない様子でフラフラとしている。


「くっ! 回復の札を」

「やらせない!!」


 再び札で牛頭を援護しようとする八重ではあるが、そう簡単にはやらせはしない。

 玉藻の周囲に刀を造り出して空中で待機させ、回転させながら八重に投げつける。


「くっ!」


 札を投げる事が出来ず、八重は遅いかかる刀を弾いていく。

 その間にも牛頭はふらつく足取りで近づくと、再び棍棒を振り降ろしてくる。

 だが当たる訳には行かない。

 牛頭の攻撃を回避すると、俺は牛頭の至近距離で炎を妖術で呼び出す。


「燃えろ!」


 至近距離の炎を喰らった牛頭も、声を上げる事もなく札へと戻って行く。

 その札を受け取った八重は、それを仕舞いつつ俺に声を掛ける。


「……初めから牛頭に攻撃するつもりで刀を投げつけた訳ね」

「卑怯とか言うなよ? 実力差があるんだから頭を回さないとな」

「言わないわよ。寧ろ油断していた私が責められるべきね」


 そう言いながらも闘志は折れていないようで、刀を構えながらこちらを陰陽機越しに睨みつけているのが分かる。


「けど勝ったとは思わないで。確かに牛頭と馬頭がやられたのは痛いけど、その分アナタも消耗したはず」

「……」


 実のところ八重の言う通りだ。

 慣れない戦いを続けている為か、だいぶ頭がクラクラしてきている。

 だが消耗しているのは同じ事。

 八重もあれだけ呪術を使えば、札も体力も消費しているに違いないのだから。

 そう心の中で考えると、気合を入れ直して刀を造り出し構える。


「じゃあそろそろ再開」

「二人とも! 右じゃ!!」

「「!!」」


 玉藻の慌てたような声に反応して、俺も八重も結界を張る。

 すると右側から弾丸のようなものが降り注いできた。


「玉藻! これは!?」

「口で言うより見た方が早いと思うぞ叶夜」

「え? って! あれは!」


 弾幕の先に居たのは、八機ほどのロボットたち。

 だがその姿は玉藻のような怪機というよりは、八重が乗っている陰陽機に近い。

 という事は、だ。


「他の陰陽師!?」

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