第20話 対決

「牛頭! 馬頭!」


 八重が指示を出すと同時に、二体の式神は雄叫びを上げながらこっちに突撃して来る。

 そしてそれぞれ、棍棒と斧を振り上げて勢いよく振り降ろす。


「っ! そう簡単に!」


 大振りな攻撃だったので避ける事には成功したが、その威力は大きく抉れた地面を見ればよく分かった。


「当たれば致命打じゃな」

「言われなくても分かって……っ!」


 避けた先には既に八重の陰陽機が移動しており、俺に対して切りつけて来る。

 それを間一髪の所で刀で受け止めるが、そこに再び牛頭と馬頭が襲い掛かってきた。


「このぉ!」


 避ける事が出来る状況ではない事はすぐに理解出来た。

 なので意識を集中させて二体の攻撃を結界で防ぐ。


「ぐっ!?」


 だがそのパワーを受け止めきれる事ができず結界は飴細工のように割れ、俺も大きく弾かれる。

 そしてその隙を逃す事無く、八重は札を大量に投げつける。


「叶夜」

「分かってる!」


 札がこっちに迫る前に、再び結界を張って防ごうとする。

 大量の札たちは結界に当たると同時に爆発を起こしていき、炎や爆風によって結界を削る。

 そして止めと言わんばかりに、牛頭と馬頭が大きく武器を振るってきた。


「ぐあっ!?」


 脆くなった結界では受け止める事が出来ず、受け身を取る事も出来ずに建物をなぎ倒しながら吹き飛ばされる。


「叶夜、無事か?」

「な、なんとか」


 確認してみれば八重の方は距離を置きながらコチラの出方を窺っている。

 その両隣には牛頭と馬頭が立っており、今か今かと待ち構えているようであった。


「あの陰陽師娘、素人相手に遠慮がないのう」

「だな」


 正直期待もしていなかったが、いざこうして相対すると手加減の一つもして欲しいと感じてしまう。


「パイロット? と言うんじゃったか? とにかく乗り手の差もあるうえに三体一ではのう」

「そう思うなら少しは手を貸してくれませんかね、玉藻さん?」

「最初の頃に言ったじゃろ? 我は手を貸すだけじゃ。自分の意地ぐらい自分で守りぬくんじゃな」

「はいはい」


 どうにか玉藻の体を起こし再び八重と睨み合う状況となった時、八重の方から話かけてきた。


「叶夜くん。もういいでしょ?」

「何がだよ」

「意地を張った所で三尾状態の玉藻前では……いえ、今の叶夜くんではたった一人の陰陽師にも勝てない」

「……」

「もし仮にこの場を切り抜けたとしても、他の陰陽師に追われる生活が続くだけ。……意思は尊重したいけど、どうしようない事が世の中にはあるのよ」


 聞き分けのない子どもに言い聞かせるような、そんな優しい口調で俺を説得しようとする八重。

 その言葉からは俺を気遣うような、そんな気持ちが受け取れる。


「……」


 これに対して玉藻は何も言おうとしない。

 俺の答えを待つように、ただ黙っていた。


「悪いが八重。こう見えて諦めが悪くてな。もう最後の最後まで足掻くと決めたんだ」

「っ! 死ぬかも知れないのよ! いえ! 死ぬより辛い目に合うかも知れないのに! どうしてそこまで……!」

「……どうして、か。そう問われると困るんだが、強いて言うなら」


 脳裏に思い出されるのは、初めて出会った美しい人外の存在。

 思えばあの時から、俺は玉藻に……。


「叶夜?」

「……この手のかかる大妖怪を見張っとかないといけないから、かな」

「我を囚人か何かのように言うでない!」


 素直に口にするのは気恥ずかしいので誤魔化した言葉に、玉藻は文句ありありの言葉を脳内にぶつけてくるが無視する。


「……そう。戦う前の答えといい、叶夜くんは全く退く気は無い訳ね」

「若干意地になってる部分はあるけどな。けど、後悔する気はない」

「……少し侮ってた。アナタの意思の硬さを。……だから!」


 そう言うと八重は陰陽機を突撃させる。

 その後方からは牛頭と馬頭は後ろを追いかけており、再び連携で攻撃してくるつもりなのだろう。


「っ!」

「悪いけど徹底的に攻撃させてもらうわよ! 病院行きは覚悟してね!」


 そう言いながら、八重は素早い突きで俺に遅いかかる。

 その隙に牛頭と馬頭は左右に分かれて俺を挟み込む。


「そんな簡単に!」


 俺はそう叫びながら、必死に頭を回す。

 どうすればこの危機を乗り越えられるか、を。

 そして出した答えが。


「っ! 尻尾を!?」


 後ろでなびいていた尻尾を使う事であった。

 陰陽機の脚部に巻き付いた尻尾によって、転ばされた八重。

 そうして動揺している間に、俺は牛頭と馬頭の攻撃を回避する。


「やるのう叶夜。あの尾は妖力の塊、動かすには相応の訓練が必要じゃと思うたが」


 そんな珍しい玉藻の褒め言葉を聞くほど、俺に余裕は無かった。

 攻撃が空振りした牛頭と馬頭が、再び俺へと攻撃をしようと突撃してきているからである。

 真向から勝負すれば、あの二体のパワーに押されて負けてしまうだろう。

 だから今、想像するべきは守るための刀でも結界でもない。

 思い出すのは、手長足長の時に見た炎。

 そして、八重が先ほどから使っている札の爆炎。


「喰らえ!!」


 そう叫び突き出した手から噴出したのは、一筋の炎。

 火炎放射器から出たような炎に、動揺したのか思わず立ち止まり直撃してしまう。

 不意を突いた一撃ではあったが、咄嗟だった為か威力が弱かったようで牛頭と馬頭は炎から逃げる。


「力の練り方がまだまだじゃな。本物の狐火はあの程度ではないぞ?」

「実力不足は分かってるって」

「じゃがあの程度とは言え狐火まで扱えるとはのう。お主には才能があるぞ」

「それ褒めてる……でいいんだよな」

「勿論じゃ。……幸か不幸かは分からんがな(ボソッ)」

「何か言ったか?」

「いや、何も。それより叶夜、目の前の敵に集中せい」


 そう言われて前に集中すれば、八重が操る陰陽機は既に立ち上がっており、牛頭と馬頭もその左右を守るように陣取っている。


「……今のは流石に驚いたわ」

「どうやら本番に強いタイプみたいでな。案外どこかの戦闘民族だったりな」


 そんな軽口に答える事無く、八重は刀をコチラに向ける。


「叶夜くん。きっとアナタには才能がある。だからこそ、ここで止めないといけない」

「……」

「その力を知れば、他の陰陽師たちはアナタを排除しようと考える。だからこそ、私が今! ここで!」

「……」


 八重が俺の事を考えて戦っているのは伝わってきている。

 それはとてもあり難い事ではあるし、正直感謝する。

 ……だとしても。


「八重。お前がどんな理由で戦っているとしても、俺は俺の意地を貫くために戦わせてもらう」


 その俺の宣言に、八重は何も答える事もなく刀を構える。

 牛頭と馬頭も八重に答えるように、遠吠えのような雄叫びを上げる。

 それを真正面で受け止めながら、俺は玉藻に話しかける。


「最後まで付き合ってもらうぞ玉藻」

「もちろんじゃ叶夜。好きなようにやれ」

「よし。じゃあ……行くぞ!」


 八重との戦いが再び切って落とされようとしていた。

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