第14話 難敵

「先手必勝、てなぁ!」


 そう叫びながら水虎は大きくジャンプすると、槍を振り下してくる。

 勢いをつけたその槍の威力は、考えただけで恐ろしいが。


「そう簡単に!」


 俺は槍が迫るその僅かな間に強くイメージする。

 とにかく硬く、あれを受け止められる刀を二振り。


 キン!


 耳には金属同士が打ち合う音が聞こえてきたと同時に、腕や脚に凄まじい圧力がかかる。


「ぐっ!」

「踏ん張れよ、叶夜」

「う、うおぉぉ!」


 玉藻の声が耳を打ち、俺は腹の底から力を出して水虎を押し返す。


「ハハ! いいねぇ! そう来ないと!」


 水虎はそう言いながら着地して、改めて槍を構える。

 本当は追撃したいところだったが、手足が痺れてそれどころではなかった。


「それじゃあ、コレは受け止められるか!?」


 そう言うと、水虎の左腕がどんどん伸びて行く。

 その腕をまるで鞭のようにしならせると、大きくその腕を振るう。


「うおっ!?」


 間一髪のところで刀で受け止めるが、大きく体勢を崩してしまうほどの衝撃だった。

 だが水虎は追撃する事無く笑いながら再び左腕を振りかぶる。


「やるじゃねぇか。長引かせるのは趣味じゃねぇが、どこまでやれるか試してやるぜ!」


 さっきと同じ攻撃。

 それを何とか弾くが、今度は連続で振るってくる。


「オラオラどうした! 三つの尾が泣いているぜ!?」

「反撃させる気もないくせに!」


 息もつく間もないとはこういう攻撃を言うのだろう。

 何とか二本の刀で受け止めてはいるが、もう腕の感覚がなくなりつつあった。

 そんな中で、俺は玉藻にある確認をする。


「玉藻! 本当に想像したらその通りになるんだよな!?」

「まあ三尾の状態でやれる事じゃったらな」

「だったら! これは、どうだ!」


 再び俺は強くイメージをする。

 ただし、今度は武器の類いじゃない。

 手長足長の時、玉藻が使っていた炎。

 狐火だろうと何でもいいが、とにかく炎を呼び起こすイメージをしてみせる。

 すると想像した通り、炎が玉藻の周りを覆うように展開される。


「熱っ!?」


 流石に予想外だったのか、思わず手を引っ込めた水虎は自分の左腕をジッと見ている。

 理由は分からないが、正直助かった。

 こっちは既に息も絶え絶えだ。


「やるじゃねぇか。まさか妖術まで使うとはな。……人間、名前は?」

「叶夜。朧叶夜だ」


 腕の痺れをどうにかしようとしながら素直に答えると、水虎は大きく笑う。


「正直見くびってたぜ。一層楽しくなって来た」


 本当に嬉しそうな声でそう言うと、水虎は両手で槍を構える。

 そして


「オラ!」


 まるで一条の光、そう錯覚するような突きを繰り出した。


「!?」


 その突きを防いだのは、紛れもなく偶然だ。

 僅かに動かした右の刀が偶々槍とぶつかったに過ぎない。


「嘘だろ」


 だがその威力は、先ほどまで傷すら付かなかった刀が崩れ去った事から見て取れた。


「三尾の妖力ではこの程度が限界じゃな。本来の妖力で作ればあの程度では壊れはせん」

「実力不足は分かったけど。これからどうしたいいか、助言くれませんかね大妖怪さま」

「それを答えてる暇は無さそうじゃぞ」

「っ!」


 玉藻の言葉が無ければ貫かれていた。

 そう確信できるほどの鋭さをもって、二度目の突きが繰り出されていた。

 何とか今度は左の刀で防ぐが、刀は同じく粉砕された。


「そうこなくちゃな! じゃあ、本気で行くぜぇ!」


 槍をブンブンと回しながら、そう叫ぶ水虎。

 そして次の瞬間には、まるで流星群を思わせるような連続の突きが繰り出されていた。


「受けてたまるか!」


 その一心で俺は再び刀を両手に作り出す。

 当然水虎の一撃を受ける度に砕け散るが、構わず俺は作り出し続ける。

 結果として致命傷は避けてはいるが、それでも玉藻の装甲にはしっかりと傷が刻まれていく。


「どうした叶夜。このままじゃと押し切らるぞ?」

「これでも精一杯やってるつもりなんですが!?」


 だが玉藻の言う通り、このままだと俺の方が力尽きるのは明白だった。

 何とか逆転の手を考えるが、刀をイメージするので精一杯で考える余裕もない。


「仕方ないのう。叶夜」

「今度は何!?」

「刀というのは本来切るためのものじゃ、身を守るものではない。そしてさっきの狐火を思い出すといい」

「そんな事言われても!」

「どうした! こっちはまだまだ行くぜぇ!!」


 そう言うと、水虎はさらに突きのスピードを増してくる。

 もう目で追う事すら難しくなってきて、腕も限界に近い。


「コイツで! トドメ!」


 聞かなくても直感で分かる。

 次に来るのは渾身の突きだと。

 多分だが刀では防ぎきれない事も、だ。


(どうする! どうする! どうする!)


 まるで走馬灯のように、水虎から繰り出される突きがゆっくりと見える。

 人生の中で一番頭を働かせながら頭の隅で、何かがひらめいた。


 ガキン!!


 そんな鈍い音がすると同時に、夜しか映し出さない『裏世界』の空に打ち上げられた。


 ――水虎の槍が。


「……」


 水虎は建物を崩しながら地面に突き刺さる槍を見て、次に俺の方を見た。


「はぁ……はぁ……」


 一方で俺は荒く息を吐きながら、間一髪でバリアが。

 いや、妖術だから結界が間に合った事に安堵していた。

 未だに激しく動悸してる心臓に酸素を送っていると、玉藻の声が聞こえてくる。


「ふむ、ようやったのう叶夜。我の助言のお陰じゃな」

「つ、次から、は、もっと、ハッキリと、頼む」


 息も絶え絶えな俺に次に聞こえてきたのは、大爆笑。

 それは玉藻ではなく、前方にいる水虎の声だった。


「ハハハ!! お前本当に戦うの二度目か!? 才能在り過ぎだろ!?」

「そ、そうなの、か?」

「ん? そりゃそうじゃろ。普通は刀を作り出すだけでも、それなりの鍛錬は必要じゃろうからな」

「……そう言う事は、早く言って欲しいぞ」


 玉藻の事はともかく、少しは息が整って来た。

 だがその間にも水虎は、未だに爆笑しながら槍を再び掴む。


「いいぜ、俄然興味が湧いてきたぜ叶夜。どこまで九尾の力を引き出せるか、試してやろうじゃねぇか!!」

「来るぞ叶夜。行けるか?」

「やるしかないだろ!」


 再び槍を構える水虎に対して、俺も刀を構える。


(今度はこっちから攻める!)


 そう覚悟して足に力を込めた時、玉藻の緊迫した声が頭に響く。


「右じゃ叶夜!!」


 その声に反応してみれば、右側から何かが飛んでくるのが見える。

 だが最悪な事に、咄嗟の事でバランスを崩してしまう。


「クソッ!」


 既に何をするにも遅すぎる。

 飛来物が何にせよ、少なくとも良い物ではない事ぐらいは分かる。

 痛みを覚悟し、思わず目をつぶりかけた瞬間。


「邪魔すんじゃねぇよ!!」


 そんな怒鳴り声と共に、伸びた水虎の左腕が飛来物とぶつかる。

 それと同時に、その左腕が爆発した。


「グオッ!?」

「水虎!!」

「よそ見をするな叶夜! 次が来るぞ!」


 玉藻の声に反応して俺は後ろに跳ぶ。

 そして飛来物が地面に当たると、その場所が爆発するのを確認した。


「今のは……紙?」

「正確には札じゃな。正面を見よ叶夜」


 そう言われなくても、俺は目の前の存在を確認していた。

 そこにいたのは紛れもなく巨大ロボ。

 ただ今まで見たものとは違い、如何にもアニメの人型兵器という姿。

 そして札を構えるその姿は、妖怪といよりもむしろ……。


「正解じゃぞ叶夜」


 そんな俺の考えを見透かしたように、玉藻は目の前の存在を教える。


「あれこそが陰陽師。そしてアレが現代の陰陽師の武器」


 —―陰陽機じゃ

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