第5話 初陣

「起きよ叶夜」

「う、うーん? ……って! 何だ、これ!」


 どうやら気を失っていたようで、目を覚ますとそこは先ほどまでとは全然違う場所だった。

 一言で言えば漫画やアニメに出てくるロボットのコックピットのような場所で、細かい部分が石のような物で造られているようだった。

 目の前のモニターのような部分には巨大な手長足長が目の前にいた。


「ここは?」

「起きたか叶夜。まず動かし方の説明じゃが……」

「そ、その声は玉藻の前さま!? 動かし方の前にここが何処かとか説明する事があると思うんですが!?」

「何じゃ細かい事を気にする奴じゃな」

「細かくない。絶対細かくない」

「仕方ないのう。これを見るといい」


 俺が心の底から言っているのが分かったのか、呆れたような声を出しながら玉藻の前は俺の目の前に俯瞰したような映像が映る。

 そこには手長足長から少し離れて、白を基調にした狐を擬人化したかのような巨大ロボットが仁王立ちしていた。


「細かい説明はしとる場合では無いからのう。簡単に説明すれば我がその鉄の巨人に化けており、それに叶夜が乗っている状況じゃな。今からお主は我を操ってあの雑魚を蹴散らせばよい」

「……すみません。どうしてこうなったのか、全然経緯が分かりません」

「そのような事を言っているような場合では無いと思うぞ? 目の前を見よ」

「え?」


 気づけば手長足長はいつの間にか近づいていて、その拳を振り上げていた。


「「死ねいぃぃ!!」」

「うおっ!?」


 咄嗟の事でどうすれば分からず、必死に腕で防御する事を考えていると巨大な玉藻の前が手長足長の拳を腕で防いだ。


「それで良い。とにかく動かしたいように考えよ」

「それは良いんですが、腕がとにかく痛いんですけど!? これってもしかして痛みとか共有してるんですか!?」

「あ、言い忘れておった」

「何しちゃってるんです!?」


 そのまま手長足長の腕を振り払うイメージをすると、巨大な玉藻の前もその通りに振り払う。


「くそっ! ならばこれならどうだ!?」


 すると手長足長の腕が急速に伸びて、そのまま鉄の玉藻の前の首に巻き付けて絞める。

 そうなると当然、俺も首に痛みと息苦しさを感じる。


「ぐ、ぐあっ」

「ほれ、早く振りほどかねば窒息してしまうぞ。頑張れ」

「ひ、他人事のように……!」


 必死に巻き付いた腕を振りほどこうとするが、上手くイメージが伝わらないのか中々振りほどく事が出来ない。

 そうこうしている内に段々と酸欠の為か集中できなくなってくる。


「た、玉藻の前さま。な、何か武器とか。無いんですか?」

「とっくに持ってはおらぬが、想像すればそれに似たものを妖術で造ってやれるぞ?」


 それを聞いて俺は必死に武器のイメージを考える。

 想像するのは何よりも切れ味がいい刃。

 そうして鉄の玉藻の前の右手にはいつの間にか日本刀が握られていた。


「い、いい加減に離し……やがれ!!」


 そう言って俺は巻き付いている腕を日本刀で切り裂くイメージを送る。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

「あ、兄者ぁぁぁぁぁ!!」


 鉄の玉藻の前はその通り動き、手長足長の腕は何か赤い霧のようなものをまき散らしながら本体と切り離された。

 手長は悲鳴を上げながら大きくヨタヨタと後退していく。

 息苦しさから解放されて呼吸を整える俺に、玉藻の前から声が掛かる。


「まあ咄嗟にイメージした割には良い刀じゃな。お主のイメージが固まるほどより良い動きや武器が造れる。覚えておくとよいぞ」

「はぁ……はぁ……。少しは労ってくれませんかね?」

「この程度で死ぬんじゃったら所詮そこまでと言う事。労うのは生き残ってからじゃな」

「よくも兄者をぉぉぉぉぉ!!」


 玉藻の前との会話に集中していると、いつの間にか目の前には先ほどより巨大化した。……いや、脚だけが異様に長く大きくなっている手長足長がいた。


「踏みつぶしてやる!!」


 そのまま巨大化した足でこっちを踏みつぶそうとしているのに対して、碌に動く事も出来ず踏みつぶされないように踏ん張ることしか出来なかった。


「ぐ!?」

「無駄な足掻きを!!」


 さらに圧力を増していく攻撃に対して、必死に耐えようとイメージする。

 だが腕も段々と痛みが蓄積していき、今にも押しつぶされようとしていた。


「どうした叶夜。我の本来の力はこんな物では無いぞ」

「わ、分かってはいますけど! どうやって引き出せばいいんですか!?」

「そんなの我も知らん。自分で考えよ」

「無責任狐!」


 そう叫んでも状況が良くなる訳もなく、腕も足も痛みで爆発しそうであった。

 頭に浮かんでしまうのは、このまま自分が死んでしまう光景。


(……嫌だ)


 このまま死んでしまうのは嫌だ。

 人は何時か死んでしまう生き物、だけど。


(こんな訳の分からない状況で、何の答えも得られないまま死ぬなんて)


 何時か死ぬんだとしても、決して今では無いはずだ。


「絶対に!! 嫌だ!!」


 その瞬間、全身に力がみなぎっていくのが分かる。

 まるで体が書き換わったぐらいの感覚を受けて、感じていた痛みも疲労もどこかへ消えていった。

 俯瞰した映像を見れば、今まで無かった光の束のような尻尾が三本ほど後ろから生えていた。


「うぉぉぉぉ!!」


 溢れる力が促すまま、手長足長の体勢を崩すイメージを送り動かしてみせる。

 巨大化した手長足長は周りの建物を巻き込みながら、盛大な音を立てて倒れ込む。


「ぐはぁ!?」

「お、弟者ぁぁぁぁぁぁ!!」


 どうやら向こうも相当のダメージを受けたようで、元の巨大な手長足長のサイズに戻っていく。

 必死に立ち上がろうとしてるが、力が入らないのか地面に倒れたままである。


「あ、あと少し」

「もう良い叶夜。初回特典じゃ、後は我がやる」

「玉藻の前さま?」

「お主は気合で我の力を三尾分まで引き出した。正直初めてでここまで引き出せるとは思わなんだぞ? 全力にはまだまだ遠いが、折角じゃからその力の一端を見ておれ」


 そう玉藻の前が言うと、手長足長の周りに段々と火の粉が舞いだした。

 そうして玉藻の前は、まるで断罪を下す閻魔の如く冷酷に告げるのであった。


「『狐火・彼岸花』」


 その瞬間、手長足長は突如現れた炎の渦に飲みこまれた。


「お、弟者」

「あ、兄者」


 それ以上、手長足長は何も言う事が出来ずその炎の渦が収まる頃には跡形もなく消え去っていた。


「か、勝った……?」


 その光景を見てポツリと漏らした俺の言葉に反応してか、玉藻の前がどこか優しい口調で声をかける。


「そうじゃ叶夜。生き残りをかけた初陣、見事お主の勝利じゃ」


 その言葉を聞いて、俺の意識は安堵からか再びシャットダウンするのであった。

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