第2話 「我(われ)」の大切さをあらためて知る

1.ドイツ参謀本部には哲学があった

哲学とは「我(われ)」を確立する為の思考鍛錬であり、「純粋理性批判」をはじめとするカントの著作を読むことを義務づけられていたドイツ参謀本部(員)には、その故にしっかりとした「我(われ)」があったにちがいない。


********************************


平安時代の武士源頼信(968~1048)、戦国・徳川時代の武士宮本武蔵(1584~1645)、また海外ではルイ13世(1601~1643)時代の剣士ダルタニアン(「三銃士」の仲間)といった、殺し合いのなかで生き抜いた武士達は、哲学をやらずとも、皆それぞれにしっかりとした「我(われ)」があった。

いい加減な「我(われ)」では殺されてしまう、という世界で生き抜いたのですから。


宮本武蔵の著書である「五輪書」を読むと、それがよくわかります。

武蔵は体力があったとか、剣技に優れていたという以上に、強烈な「我」があったからこそ、60数度の殺し合いに勝つことができた。勝利を科学できたのです。


「五輪書」のはじめの部分で武蔵は、「近頃(江戸時代初期)の武士は物足りない」、というようなことを述べていますが、当時の武士達が天皇万歳から殿様万歳へと変わったのは良いが、早くも、再びサラリーマン化していることを指摘しています。


天皇万歳を打ち倒し、汗水流して働く者、命がけで人生を切り拓く者が日本を支配し、民百姓を導くべきという気運で戦った戦国期の武士。そんな彼らが持っていたガッツがない、やる気が無い、自主性がない、つまりは、しっかりとした「我(われ)」を持つ武士がいない、ということを嘆いているのです。


現代でいえば、テレビ・新聞・スマホによって遠隔操作され、「コギト・エルゴ・スム(我思う故に我あり)」という、真の我を持つことのできない夢遊病者・ロボット・操り人形のような人たちのことでしょうか。


********************************


ドイツ参謀本部とは、あくまでも国家の為に、命を賭けて任務を遂行するという点では日本の参謀本部と同じでしたが、日本人と異なり、ロボットではなかった(と、私は思います)。

或いは、日本が負けると察知するや、朝鮮半島や中国大陸、南洋諸島から、自分たちだけ先に日本へ逃げ帰る、といった「自分勝手な我」の日本の職業軍人や警察官ともちがっていた(私の叔父や伯母の話)。


ドイツ人とは、みな自分の頭で考えて自分の意志で(民族の為に)死んでいったのであって、ハーメルンの笛吹き(天皇)に欺されて夢遊病者のようにして集団自殺させられた多くの日本人とはちがう。

大切なことは、ドイツ参謀本部も一般のドイツ人も「我(われ)」があったということ。ドイツ人はヒットラーに欺されて戦争に飛び込んだのではない。彼らは皆「わが闘争」というヒットラーの著書を自分で読み、自分の頭と心で納得ずくで戦った。「赤信号みんなで渡れば恐くない」という、日本人とはちがっていたのです。(私自身の「ドイツ人体験」にも因る考えなのですが)


しかし、日本人の中にも、月刊BE-PALなんていう雑誌に連載されている、冒険家・探検家と呼ばれる人たちには、しっかりした「我(われ)」がある。

(例えば)マイナス50℃という環境で、何週間(何ヶ月間)も、たった独りで、危険で厳しい環境の中で生活するというのは、強烈な「コギト・エルゴ・スム」がなければ、寒さや飢え以前に精神が崩壊してしまうだろう。

四六時中、スマホでチャラチャラお話ししている者など、たとえ知力や体力に優れていても、精神的に持たないにちがいない。


<参考> 上記の私の主張とは直接関係しませんが、「ドイツ参謀本部」渡辺昇一 中公新書


2.「狂気によって正気を得る」という道


現代では;

○ 宮本武蔵のように、殺し合いの中で強固な「我(われ)」を作り上げる、なんてことはできない。また、月刊BE-PALの冒険家や探検家のようなことは、誰にでもできることではない。


○ 政府やマスコミから、のべつ幕なしに、けしかけられ追い立てられ、落ち着いて物事をじっくり見たり・考えたりする(哲学する)時間が無い。(まあ、四六時中、スマホなんぞを見ているような人には、真の「我(われ)」なんて必要ないのかもしれませんが。「酔生夢死」というやつで。)


では、殺し合いも冒険・探検も駄目、哲学もできないとなると、一体どうやって「我(われ)」「コギト・エルゴ・スム」を自分の内に確立したら良いのか。


ここに(大学)日本拳法の意義があります。

○ 擬似的な殺し合い(真剣勝負の心)

○ 殴り合いによる哲学(リアルタイムの双方向性という「純粋理性批判」)


続く


2023年12月12日

V.1.1

平栗雅人

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る