第36話 名案

ジュディスと魔王が、救護室で話している。


「姫様とレドは大丈夫でショウカ…私、心配ナノネ…」


「…わからないが、無事であると思うぞ!あの二人なら…なぜかやれる気がするのだ。」


「魔王様…姫様のことは…」


「…うむ…そこは我も考えているのだ。サヤ殿と無理に夫婦になることは、我の恩人であるレドに喧嘩を売ることになる。そんなことはしたくない。奴は友でもあるからな。」


勝手に友達にされているが…


「それじゃあどうするノネ?」


「…諦める訳にはいかない。民の信頼のためにもな。…しかし、我は思うのだ。魂の番に頼ってばかり…それは本当に民のためになるのか…?」


「…ソウネ。魂の番だからといって、国を思う気持ちが同じくらいである訳ではナイ。しかも、姫様は剣聖ネ。人間の国を裏切ったと反感を買われる可能性モ…」


魔王は一つ、提案することにした。


「そこで、我から提案があるのだが…我の側には、民の幸せを第一に考えていて、そんな姿勢を見ている民からの信頼もあり、我のこともよく理解してくれている者がいる。誰だと思う?」


ジュディスは考える。

誰だか検討もついていない様子だ。

魔王はそれを見て微笑み、こう答えた。


「答えよう。それは、そなただ。」


「ヘ?」


ジュディスは呆然としている。


「誰よりも民のことを思い、尽くしている者は、そなたしかいないのだ。」


「ちょっ…ちょっと待つネ!私はそんな器じゃないヨ!魔族の王妃なんて絶対無理ナノ!」


「我はそう思わないが…それなら教えるぞ!でも、ジュディスはすぐに覚えてしまうからな。魔法もそうだった。懐かしい!」


思い出話を始める魔王に、ジュディスはため息を吐く。


「これじゃあ、先が思いやられるネ…」


ジュディスが思い出話に付き合っている最中、レドたちは魔王城に向かっていた。


「私たち結婚するんですよね!また、あのお店に伺わないと。」


「あの絶品ご飯の所か…だが、その前に世界を救わないとだな。マリケスも待ってることだし。」


「そうですね…マリケスのこと、完全に忘れてました。というか、ファーミラさんに交渉しないと…」


魂の番の話が解決したことを二人は知らないため、まだ悩んでいる。

そんなこんなで、見つからないよう魔王城に潜入。


二人は人間なので、今見つかると面倒くさいことになる可能性が高い。

裏切り者の件もあるので、尚更だ。


「ファーミラが無事だといいが…」


「そうですね…救護室とかに居るんじゃないですか?怪我してるので…無事でいてください…!」


無事を祈りながら、救護室を探す。


「だから、私は無理ネ…魔王様、現実を見てほしいヨ。」


「あの二人にも聞いてみようじゃないか!それではっきりするぞ!」


この声を聞き、二人は安堵する。

しかし…


ガラガラガラガラ


車輪の音がする。おそらく看護師だろう。

二人は急いで救護室に入った。


「おお!二人とも無事…」


「しーっ!看護師さんが来てるんです…匿ってください…」


「わかった…ベッドの下に入ってくれ…」


音を立てない様に、慎重にベッドの下へ潜り込む。


「ファーミラ様、ジュディス様、失礼致します…お怪我をなさっているのは承知しているのですが、他の四天王の方々が面会を希望していまして…」


「わかった。ありがとう。他の者、入って参れ。」


「失礼致します…」


四天王が部屋に入ってきた。

ん?四天王…ジュディスが抜けたはずだが…なぜ四人揃っているのだろうか?


「あら、ジュディスじゃないの?ちょうどよかったわ。魔王様にお見舞いとジュディスのクビを報告しに来たのよ。」


「ジュディス、クビとはどういうことなのだ?」


「魔王様、そのままの意味だぞ。ジュディスは四天王を退くことになった。理由は…お察しの通りだよ。」


すると、新しい四天王が話し出した。


「僕が新しい四天王だよ、魔王様…ジュディスさんが四天王に見合わなかっただけです。僕はその点、心配がないでしょう?」


老人以外の四天王は皆、クスクスと笑っている。

魔王は頷く。


「うむ。貴公ならその心配はいらんな!それより…皆、我の事情をわかってくれている…と考えていいのか?まだ伝えていなかったのだが…」


「もちろんですよ、魔王様!周知の事実だったんですもの。ジュディスの頭のことは。ふふ…」


「真の意味で、四天王の完成と言えるだろうね!これほど完璧なものは見たことがない…ククッ…」


「そうかそうか…皆も思っていたのか!ジュディス、尚更物事はうまく行っているぞ?これは我の勝利ということでいいな!」


…何だか話が噛み合っていないような…?

ジュディスのクビを、魔王が賛同する意味がわからない。


「では、正式に僕が内定…ということでいいのですね?」


「いや、貴公の審査は後でする。それよりジュディス!今居る部屋を移さねば。我の部屋の隣に!これからはいつでも話し合えるようにしないとな。」


「いやいや…魔王様、冗談キツいっすよ…」


「何も冗談じゃないが…それとも、他に意見が?」


四天王たちもようやく、何かおかしいことに気づいた様だ。

魔王に問い詰める。


「魔王様…事実確認をしたいのですが、何をもって…ジュディスを隣に移すのですか?」


「結婚するからに決まっておろう!」


「…は?」

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