第34話 前世の私

サヤが顔を上げると、そこには…


「…どうして、私がいるんですか?」


サヤと瓜二つ…いや、サヤが立っていたのだ。


「どうしてかはわかりませんが…きっと、愛の力ですね。」


「…幻覚なら、さっさとどこかに行ってください…」


「あなたに…いえ、私に渡したいものがあって来たのです…」


起き上がると、もう一人のサヤは冷たくなったレドを見ていた。

悲しそうな表情をしたあとに、サヤのおでこに触れ…


「私の記憶を、あなたに差し上げます。元々私にありますが、忘れているようなので…」


「前世の記憶…ということですか?」


「それもありますが…私が持つ力のことです。この世界に降り立った時、私は力を得ました。どんな傷でも癒す魔法の力を…やり方を思い出してみて…?」


そう言うと、二人は暖かい光に包まれた…



……………………………

「ここは…」


「ようこそ…サヤさん…」


聞いたことのない声がした。


「誰ですか…?」


「私はあなたの住んでいた世界とは違う世界の女神…そして、ここは神界…魂が命に生まれ変わる一歩手前…と言ったらわかりやすいでしょうか…」


前には、美しい女神が立っていた。

サヤは女神に尋ねる。


「女神様…!レド様はどうなったのですか!?どうしてあのお方がここにいないのか、教えてください…」


「落ち着いて…あなたの探すお方は、まだここに来ていません…おそらく、あと20年ほどでしょうか…」


「ここで待つことは…」


「できません…」


サヤは絶望した。

愛する人が癌になり心中しただけでなく、黄泉の国にも行けなかったのだ…

そのショックは計り知れない。


「どうしたら…会えるのですか…?」


「私の世界に降り立ち、待つことしか…それに、前世の記憶は長く持ちません…でも深く愛し合っていたあなたたちなら…」


サヤは次の世界に賭けることにした。

次こそ、レドが健康でいて、また深く愛し合える人生を掴むと。


「では、私を女神様の世界に送っていただけませんか?」


「そう言ってくださり、ありがとうございます…その前に、一つ力を差し上げましょう…この世界を生き抜くための魔法の力です…」


「魔法…!?手から炎が出る現象が、実在するのですか?」


女神は頷く。


「もっと様々な魔法がございます…移動する魔法、力を強くする魔法…きりがないほど…あなたが使いたい魔法を教えてください…もちろん、愛する人を守る魔法も…」


「…では、死者を蘇生できるほど強い癒しの魔法を。無理なお願いでしたらすみませんが…」


「死者蘇生と回復の魔法…でよろしいでしょうか?」


「はい!レド様を助けられる魔法なら…なんでも…!」


女神は光の塊をサヤに差し出した。


「あなたの大事な人を助けられる魔法…おおざっぱですが、そんな魔法です…蘇生も、回復もできますが…使えるのは危機に陥った時のみ…」


「わかりました。死者を蘇生できるほどの魔法をたくさん使えたら、大騒ぎになっちゃいますもんね…」


「さぁ、この光に触れてください…そうすれば、あなたは私の世界に降り立てる…もちろん、力も一緒に…」


「女神様、ここまでありがとうございました。私はあなたの世界に降り立ちます…!」


そして、サヤは光に触れて世界に降り立った…

…………………………………



「ハッ…!今のが記憶?って…誰もいない…」


サヤが記憶を見届けた時には、もう一人のサヤは消えていた…


「レド!今こそ危機に陥っているはずです…魔法を!」


そう言った時、両手が暖かい光に包まれ…

今こそ使いなさい。そう言われた気がした。


「レドを…助けて…!!」

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