第30話 水晶の間

「どうやったらサヤを正気に戻せるんだ?今は眠って…ていうか、眠らされているから平気そうだが…」


「サヤ殿は魔法を解かない限り、起きない状態にある。もし解いてしまったら…また、我に迫るだろう。今度は、迫るだけじゃ済まないかもしれない。」


「そうだな…サヤは肉食系だ。俺が一番知っている。」


「…なぜ、そんなことがわかるのだ?」


返答に困った。魔王にまで、前世のことを話す訳にはいかない。

それも、まだ信用ならない者に。


「俺たちのことを、何も知らないんだな…まぁ、その方がいいが。」


「とにかく、サヤ殿を助けないとだ。そのためには…魔法をかけた張本人を見つけなければならない。」


「そうだな。さっき言ってた通りだ。だが、どうやって探す?国の土地全てを見ていてはきりがないだろう?」


「ついてきてくれ。水晶の間に案内するぞ。ジュディス!サヤ殿のことを頼んだ!」


ジュディスは了解のポーズをとり、サヤをベッドまで運んでくれた。

しばらく城内を歩いていると…


「人間…?何で魔王様と一緒に…」


周りの魔族から、白い目で見られた。

敬愛する魔王が、敵対関係にある人間などと歩いていたら、警戒するだろう。すると…


「皆、この男は我の命を救ってくれた恩人である。警戒しなくても大丈夫だ。我が保証する。」


魔王がかばってくれた。これにはレドも驚く。


(俺のこと、敵視してるんだよな?…ジュディスの言った通り、良き王であることは間違いなさそうだな。)


「ファーミラ、感謝する。しかし、俺とはライバルの関係だろう。情けをかけていいのか?」


「事実を認め、受け入れることと…情けをかけることは違う。我は事実を認めただけだ。改めて、我の命を救ってくれてありがとう。」


「いいんだ。俺たちはやるべきことをやっただけだからな。」


「…着いたぞ…ここが、水晶の間だ。」


二人がたどり着いた部屋は…

まるで占いの館とも言える様な雰囲気の部屋だった。


「ここで魔法かけた本人の居場所がわかるのか…?」


「その通り。少し手順を踏まねばならぬが、ヒントを得られるはずだ。」


そう言うと、魔王はテーブルにかけられた布を取った。

布を取る前は平坦だったはずだが、布の下から水晶玉が現れた。

やはり、普通の部屋ではない。


「これに、魔族…今は我の魔力を注ぐのだ。そうすると、目的の場所だったり人物だったり…何かしらヒントを得られる。」


「便利なんだな。これは特注とか、そういう物なのか?これが量産されていたら、とんでもないことになるだろ?」


「そうだ。王族の中でも、かなり高位の者でないと手に入れることすらできない。必要とされる魔力の量も、かなり多いからな。」


話しながら、魔王は水晶玉に手をかざす。

深呼吸をして水晶玉に魔力をこめ始めると…


ポウッ…


水晶玉が光り、何かが見えてきた。

魔王の強大な魔力によって、部屋はガタガタと揺れている。


「見えたぞ!こやつが、サヤ殿に魔法をかけた男だ!」


一人で森の中を歩く、魔族の男の姿が見えた。

悠々と散歩気分で歩いている男。

しかし、レドはこの場所に見覚えがあったのだ。


「…ここはラグナロクという街のすぐそばだ!こいつ、何かする気か…!?」


「今すぐ、そのラグナロクという街へ向かってくれ!こいつは魔族至上主義…おそらく、人間たちに害を及ぼすつもりだ!!」


「わかった。しかし、ここからラグナロクまでは遠い…転送魔法か何か使えないか?」


「それは出来ない…一度行った場所など、記憶している場所にしか行けぬのだ…」


レドはピンと来た。


「ジュディスなら、この近辺に一度来ているはずだ!あいつなら可能…!」


「しかし、サヤ殿の睡眠魔法は解けるぞ?我はここを離れることができない。この国の王だからな…」


サヤがファーミラに迫るのを許すことはできない…

そうだとしても、サヤを助けるにはそうするしかない。

苦渋の決断を迫られるレド。


「…魅力にかけられたサヤと、無理やりするなんてことはない。と約束できるか?」


「もちろんだ。我もサヤ殿に惚れた一人。侮らないでくれ。」


二人はジュディスの元へ戻る。


「ジュディス!サヤ殿の睡眠魔法を解いてくれ。そして、ラグナロクという街への転送魔法をつくってくれないか?」


「ラグナロク…ドラゴンがいたところネ!でも…姫様の魔法ハ…?」


「一度解いてくれていい。城内を逃げ回っていれば、なんとかなるだろう。」


ジュディスはサヤの睡眠魔法を解き、転送魔法を使った。


「これで行けるネ。レド、作戦を教えてくれるカ?」


「ああ、途中で教えるよ。それと、ファーミラ…サヤをよろしく頼んだぞ。」


二人は転送魔法の中に入った…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る