第27話 祝福

「荷物持ち…俺には身体能力強化が…」


「ぐだぐだ喋るために来たのか?マリケス。」


「いちいち癪に触る奴だな…身体能力強化…!」


能力強化の魔法を唱えると、マリケスはすぐさま殴りかかってきた。

作戦もへったくれもない、普通のストレート。


「当たれば即死だっ!!」


サヤの能力強化と比べると、かなり見劣りするマリケスの強化。

それを容易く見切り、回避する。


「サヤの強化とは比べ物にならんな…遅すぎるぞ?」


「黙れ!お前はできないくせに!」


レドは集中する。自然に耳を傾け、神経を研ぎ澄ませ、唱えた。


「身体能力強化…!」


レドは、身体の底から何かが沸き上がってくる感覚を覚えた。

見よう見まねで使った能力強化だったが、なぜか使えてしまった。

確かめるために拳を握り、地面に叩きつけると…


バリバリバリッ


地面が簡単に割れた。

サヤのものと比べても遜色ないほどの能力強化…レドがこれを使えたのには、理由があった。


それは…世界樹にある。

レドは世界樹の精霊から祝福を受けていたのだ。

伝えられていなかったものの、保持できる魔力が増えるというもの。


魔力とは簡単に言えばMP(マジックポイント)のようなもの。

魔法を使えば消費し、しばらくすると回復する。


量が増えるということは、使える魔法が増えるということ。


レドの場合は魔力がもともと多かったのも相まって、簡単な魔法なら手順を覚えなくても、無理やり発動できるようになってしまった。というものである。


「な…何でお前なんかが能力強化を使える!?それにその威力…インチキだ!」


「言っただろう?加減はできないと。」


ジリジリとマリケスへ歩み寄るレド…

マリケスは腰を抜かしてしまい、レドを恐れるように後ずさる。


すると…


「レド!その辺にしといてください!勝負はついてますよ~。」


サヤが棄権を判断した。


「おい剣聖!俺はまだ闘える!棄権なんか…」


「棄権しとけ。これ以上は俺も制御できん。サヤ、解除の仕方を教えてくれないか?」


「はい!魔法…というか魔力が暴走してますね。叩けば治ります。ちょっと痛いですが…えいっ!」


スパァンッ


かなりの勢いで、レドの背中を叩いた。

これにはレドも悶える。


「痛っっ!!サヤ、強いよ…」


「すみません。でも、痛くないと駄目なんです!痛みに神経が集中するので、魔力への意識が途切れて…」


「…本当だ。身体の底から何かが沸き上がって来るのが止まった…?」


本当に止まったみたいだ。少々荒治療だが…


「ちゃんと使う時の手順を踏んでやらないと、変なことが起きるのでやめてくださいね!しかもこんな実戦でやるなんて…」


「そ…それより決闘だ!!なぜ俺を棄権にした!?まだ闘え…」


「死にたかったんですか?先ほどのレドに敵うほど、あなたは強くないですよ。それで…レド、命令は何ですか?」


敗者は勝者の言うことを一つ聞く。それが決闘の条件だ。

自分で言ったくせに、マリケスは不服そうだが…


レドはしばらく考えた後、こう言った。


「そうだな…では、俺たちの話を心して聞いてくれ。それが命令だ。」


「…は?なぜそんなことで済ませるんだ!?もっと謝罪とか…二度と現れるなとか…あるだろう!?」


「これが俺たちの望みだ。頼む、話を聞いてくれ。」


二人はマリケスに頭を下げた。

マリケスはなんだか気味悪がっていたが、話を聞いてくれた。


「まず、魔王討伐をやめてほしい。」


「!? 何故だ…?魔王討伐は、人間たちの悲願だろう!」


「平和的解決の糸口が見つかったんです。レド、続けてください。」


「理由だが…俺たちはある魔族に会ったんだ。ポンコツだが、信頼に値する者でな。話を聞いた限りでは、魔王は人間を滅ぼす気などない。そして、民からも愛される良き王だと。」


何か言いたげなマリケスだが、話を聞くのが命令だ。


「次に、お前には…政治の勉強をしてほしい。」


「なっ…!?」


「今の人間の国の政治は廃れてしまっている。それをお前に変えてほしい。政治の裏には奴隷制度、賄賂、色々なものが蔓延っている。王になるお前だったら、止めることができるだろう?」


「…確かにな…だが、俺にそんな重役を任せるつもりなのか?」


二人は顔を見合わせ、頷いた。


「私たちは、あなたの'努力'は認めているつもりです。勇者として、強くなろうと奮闘していたときのね。」


「そんなお前を見込んで、話をしている。平和のために、そして民のために…国王を止めてもらえるか?」


「…………お前たちのことを完全に信用した訳じゃない。だが、父上への疑いがない訳でもない…少しだ。少しだけ、手を貸そう。お前たちを信じるよ。」


なんと、交渉は成功。あのマリケスが折れるとは…奇跡と言えるのでは?


「ありがとう、マリケス。…本当にマリケスだよな?」


「そうだ!俺こそが勇者マリケスだよ!それで…俺は何をすればいいんだ?」


三人は、作戦とこれからのことについて話し合った…

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