第26話 勇者の剣

「隊長さ~ん!お話があります!」


「おっ!英雄たちから話があるそうだ。行ってくるよ!」


二人が呼ぶと、隊長はすぐに駆けつけてくれた。


「何用だ、英雄殿!二人の告白の話なら見ていたから聞かないぞ?ハッハッハ!」


「見てたのか…まぁそれは置いといて、別の話があるんだ。」


「ここら辺に、人間の国の勇者が来ませんでしたか?かなり頭がお花畑の方なんですが…」


「うーん…私は知らないが、世界樹の精霊殿なら知っているかもしれん。訪ねてみたらどうだ?貴殿らは世界樹を救った英雄なのだからな。」


有益な情報を得られた。

確かに、世界樹の精霊ならマリケスのことも知っているかもしれない。


「情報、感謝する。俺たちは世界樹のふもとに行ってくるから、村をよろしく頼んだぞ。」


「お願いしますね~!」


「ああ、気をつけて行ってくるんだぞ!!」


隊長は、手を振って二人を見送ってくれた。

森の奥深くに入って、世界樹を目指す。今は警戒を解いてくれているのか、世界樹は姿を現していた。


「俺たちを認めてくれたってことか?世界樹は見えないって言われたよな。」


「きっとレドのことを救世主だと思って、姿を現してくれてるんですよ!」


話しながら歩いていると…


ちょんっ…


レドがサヤの手に触れた。


「…手、繋いでもいいか…?」


「…………もちろんです…」


少しぎこちなく手を握り、再び世界樹に向けて歩きだし…

一時間ほど歩いたところで、二人は世界樹のふもとにたどり着いた。


「世界樹の精霊殿!話があって来たのだが…」


レドが語りかけると、世界樹から光の塊が降り立った。

それは美しい中性的な人間の姿になり、二人に話しかける。


「…獣の王、フレイザードを討伐し世界を救ったあなた方に渡したいものがあるのです…」


そう言うと、精霊は一本の剣をレドに手渡した。


「それは遥か昔、平和を願い闘った勇者が振るっていた剣です…あなたがたが魔王を倒すつもりはない。というのはわかっておりますが、きっといつか役に立つでしょう…」


「ありがとう。平和のために使うと誓うよ。」


「精霊さん、ありがとうございます!私たちが来た理由なのですが…勇者マリケスについて、何か知っていませんか?」


サヤが尋ねると、精霊はため息を吐き、こう言った。


「彼は勇者ではありません…」


二人は驚いた。マリケスが勇者ではない…?それでは、誰が勇者なのか?

色々と疑問が浮かぶ中、精霊は話し続ける。


「王太子マリケスは国の陰謀によって生まれた勇者なのです…彼は勇者ではなく、ただの剣士だった…しかし、それを恥じた国王は神官たちを買収し、マリケスを勇者へと祀りあげたのです…」


「そんなことがあったのか…では誰が勇者なんだ?」


「平和を願い続けるれば、いつかわかることでしょう…そして、マリケスは今こちらに向かって来ています…早く村に戻りなさい…」


マリケスが来ている…?

どういうことかを尋ねようとした時、精霊はすでに消えていた。


それに気づいた二人は、急いで村へと戻った…


「マリケスの野郎、何もしでかしてないといいんだが…」


「皆さん…無事でいてください…!」


二人が村に着くと…


「俺は勇者だぞ!?早くここを通せ!!」


「あいにく、我々には別の勇者がいるんでね。お前を通すことはできない。」


「糞エルフが…口答えすんじゃねぇ!!」


そう吐き捨て、隊長に斬りかかった。が…


パキィンッ


マリケスの剣が粉々に砕け散った。


「なっ…!?」


「久しぶりだな…マリケス。世界樹を守護するエルフを殺そうとするとは…関心しないぞ?」


「我らの英雄よ、帰還したか!」


「マリケス…もう、様はつけませんよ。早くこの村から出ていってくれませんか?」


レドがスキルを使用し、剣を砕いたのだ。

まぁ…隊長がマリケスに負けることはないと思うが。


「荷物持ちに剣聖…何しにここへ来た?」


「教える必要あるか?逆に、お前こそ何をしに来た?」


レドが尋ねると、マリケスは鼻で笑い言った。


「ハッ!俺様は勇者だからな!世界樹から剣を貰いに来たんだよ。魔王を殺すために。ほら、これでいいか?さっさと通せ。」


「ん…?剣…それってこれのことか?」


レドは世界樹から受け取った剣を見せた。


「は…?何でお前がこれを!?」


「世界樹から譲り受けたんだよ。遥か昔、平和を願い闘った勇者が振るっていた剣…だそうだ。」


「それは勇者しか持つことを許されない伝説の剣だ!!早く渡せ。でないと殺すぞ!!」


「マリケス…気の毒だが、お前は勇者じゃない。」


レドは、世界樹から言われたことを伝えた。

マリケスは怒りを露にする。


「もともとおかしかった頭が、さらにおかしくなったみたいだな!俺は勇者だ!神から授かった職業…」


「それは国による陰謀だ。国王とその周辺の貴族たちが、お前を勇者だと祀りあげたんだよ。」


「父上が…!?そんなこと、ただの嘘だ…!俺は勇者だ!絶対に…!」


「そう思うなら、帰って国王に尋ねてみたらいい。自分が本当に勇者なのかどうかを。」


マリケスの心は揺らいでいた。

幼い頃から勇者の鍛練を積んだのに、一向にスキルを習得できなかったこと…勇者である自分を見る父の目を…全てを疑っていた。

不安定な心境のまま、マリケスは反論する。


「帰るも何も…俺はその剣が欲しくてここに来た!簡単には引かない…!」


「だが、これは世界樹から受け取った大事な剣だ。何を言われようと渡さない。」


「ならば決闘だ!剣などは使わずに、拳で勝負。勝った方は負けた方に一つ命令できる。これでどうだ?」


明らかにこちらが不利な条件だが…

マリケスに魔王討伐を止めるように言わないといけないので、レドはこの条件を承諾した。


「では…私が審判を引き受けます。マリケスとも知り合い…と言えるかはわかりませんが、見知らぬ者に任せるよりはいいでしょう?」


「まぁいいだろう…合図は任せたからな、へっぽこ剣聖!!」


この一言が、レドを激怒させた。

妻を侮辱されたのだ。怒るのも当然だろう。


「加減はしない。死ぬなよ?マリケス…!」


均等に距離をとり、サヤが合図の構えをする。


「3…2…1…始め!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る