第23話 獣の王、フレイザード

木々を薙ぎ倒し、巨大なイノシシの様な化け物が世界樹に歩み寄る…


「魔獣確認…獣の王、フレイザードで間違いない!ニンゲン、作戦通りに行くぞ!」


「了解しました!レド、走りますよ!」


「ああ!ジュディス、魔法の用意を!」


「もう準備できてるネ!」


エルフたちも弓と魔法の準備を済ませ、いつでも闘える状態になった。

サヤとレドは、フレイザードに見つからないよう木々の間を縫うように走り抜け、接近する。


「ジュディス、今だ!魔法を放ってくれ!」


「私の全力爆破魔法、五月雨さみだれをくらうネ!」


フレイザードの周りに魔方陣が現れる。

それに気づく間もなく…


チュドオォォンッ


一斉に魔方陣が爆発する。

フレイザードの周りは煙幕に包まれ、外からも中からも何も見えない。


「レド!今です、手を!」


「わかった!跳ぶぞ…!」


「身体能力強化…最大!!」


二人は天高く舞い上がり、フレイザードの目の前に到達した。

それに気づいたフレイザードは牙を振り回し、二人を始末しようとする。


「それは手の内です!レド、スキルを!」


牙をレドのスキルで防ぎ、サヤが刀を構える。


「抜刀…居合い斬り…!!」


スキル、抜刀居合い斬り。その名の通り、抜刀時に相手との距離を詰め、居合い斬りで仕留めるスキル。サヤが剣聖と呼ばれる所以でもある。


一気に距離を詰め、フレイザードの瞳を切り裂いた。


「グォァアァァァァァ!!」


耳をつんざくような雄叫びをあげ、よろめく。


「レド、スキルを使いながらもう片方の瞳を狙いますよ!」


「わかってる…くそっ…足動けよ!」


高所恐怖症で足がすくんでいるレドを支えながら、もう片方の瞳に向かう。

レドがいないと、フレイザードが魔法を使った時に防ぐ術がない。

重要なポジションに立つレドは、プレッシャーと恐怖に押し潰されそうだ…


「私が居ます!安心してください!」


「ありがとう…少しずつなら歩けそうだ…」


エルフたちはレドたちから目標を移すため、弓で気を引く。

そう…これが作戦だ。ジュディスの爆発で煙幕を張って二人をカバーし、目を潰す。その後はもう片方の目を潰しに二人が移動している間、エルフたちが弓で気を引く。全貌はこうなっている。


「よし…もうすぐもう片方の…」


もうすぐ到達…と思われたが…


「転生者よ…よく聞くがいい…」


(フレイザードの精神攻撃…!そんなの通じ…)


「お前の妻の記憶を取り戻したくないのか?」


レドの足が止まる。フレイザードはレドに語り続ける…


「もし世界樹を破壊し、世界を滅ぼした暁には…我々の世界で一生、妻と幸せに暮らすことを約束しよう。どうだ?お前の望み通りだろう?」


「……………………」


「レド、急いでください!」


最愛の妻の記憶か。はたまた世界か。

究極の天秤にかけられたレドは、涙を流す。


「そりゃあ…戻ってきてほしいさ…」


「フフフフフ…そうだろう?我と手を組み、世界を滅ぼ…」


「でも、一緒に歩んでいる時に気づいたんだ…俺のサヤへの愛は変わらない。例え記憶があろうが、なかろうがな!」


再びサヤの手を取り、瞳に向かう。


「サヤ、すまなかった…最後は俺がやる。」


短剣を瞳に突き刺した。もがき苦しむフレイザード。

更に奥深くへ短剣を突き刺した。これがトドメとなり、フレイザードは倒れた…


二人はお互いを支え合いながらしがみつき、なんとか落下を免れた。


「姫様~、どこですカ~!!」


「ジュディスさん!私たちはここですよ~!」


見事、獣の王…フレイザードを討伐した。

村のエルフたちが集まって、三人に感謝を述べる。


「貴公らがいなかったら…我々は敗れていただろう。本当にありがとう…レド、サヤ。」


「チョット!私を忘れないでネ!」


「そうだったな!ジュディス殿…貴公にも感謝するぞ!」


無事に世界樹を守った三人。

このあと、感謝と祝福の宴をすることになった…

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