第10話 暗月

時は現在に戻る。


「前と何も変わらない…ちょっと人に惚れやすいところとか。かわいいよ…」


「レドにだけです!あとかわいいって言うのやめてください!」


好感触のレドは更に一押し…


「記憶が戻る前に結婚してもいいんだぞ?」


「け…結婚!?もう、本当にやめてくださいぃ!」


「わかったわかった。嬉しかったんだよ…ごめんね。」


さすがにこれ以上はアレだと思い、やめておいた。


「それで…魔石の取り方なんだが…」


「わかりました…無茶しないって約束してくれるなら!教えます。」


「わかった…これからは報せるようにする。」


そう言うと、サヤはゴブリンの魔石の取り方を教えてくれた。


「人で言う心臓の隣にあるので、少しグロテスクですが…」


「うわっ…そこにナイフ刺すのか。心臓の横の光ってるやつか?」


「はい!これが魔石です。これをギルドに持っていくと、買い取ってくれます。次はレドがやってみて?」


少しためらいながらゴブリンの心臓部にナイフを刺す。

初めての感覚に身震いしながら、胸を開いて中の魔石を取り出した。


「命に感謝…だな。」


「そう思う人あまりいませんが、大事ですよね!ゴブリンも一つの生命ですから…冒険者の方は、モンスターの命を粗末にしちゃいがちなので…」


「日常的に殺すようになったら、皆そうなるかもな。魚や獣もそうだ。人間は生命の大切さをわかっていない…」


「レドって、前世小説家とかでしたか?教えを説く感じが…」


言われたことのない言葉に驚く。


「急だな…でも、小説家ではなかった。詩人っていうやつだな。」


「どんな詩書いてたんですか?気になります。」


「その…サヤとの生活のことだよ…言うのは恥ずかしいから嫌だが。」


おそらくイチャイチャしてること書いてたんだな…とサヤは察する。

全ての魔石を取り出したので、また次の街へと足を進める。


「こういうときは馬や馬車があると楽なのですが…ないですし…雇うお金も無いですね。」


「うまいこと言うんじゃない…あれ、次の街か?」


指をさす先には、大きな塔があった。


「あれです!日が暮れる前に、急ぎましょう!」


その後、二人は二時間ほどかけて目的の街へと辿り着いた。


「でかいな…名前はなんていうんだ?」


「ここは'ラグナロク'って街ですよ!ここなら、私たちの噂も届いていないはずです!」


「ラグナロク…ドラゴンみたいな名前だな。おとぎ話の。」


「勘がいいですね!この街はドラゴンに護られている。と言われているんです。ドラゴンは山の奥深くに住んでいるとか…」


話しながらギルドへと向かう。

ギルドはどんな街や村にもあるのだ。これは国の条例で決められている。


「この通りにあるはずなんですが…」


二人が立ち往生していると…


「ギルドならあんたらの後ろにあるぞ!」


親切な人が教えてくれた。


「あ、ありがとうございます!!」


「いいってことよ!」


親切な人に礼をして、ギルドに入る。


「前の街より、ギルドがでかいな。」


「それだけ依頼も多いはずです!頑張りましょう!」


ギルドの中はかなり賑わっていて、様々な冒険者がいた。


重騎士だろうか?豪華な鎧を纏うおっさん。ザ・魔法使いな女性。マリケスより勇者っぽい青年。


「色々な場所からここに訪れている冒険者がいるんだな。」


「そうですね!…あ、職員さん!パーティを組みたいのですが…」


「承ります!リーダーの方は…?」


「私でお願いします。いいかな?」


レドは頷く。


「では、リーダーさんの名前と…パーティの名前を書いてください。私は向こうに回りますので、お二人でどうぞ!」


そう言うと、職員は他の窓口の対応にあたった。


「どうします?パーティの名前…」


「うーん…そうだな…暗月…とかどうだ?」


「何故ですかレドさん?お答えくださいまし!」


すると、レドはなぜか恥ずかしそうにして…


「思い入れがあるってだけなんだが…サヤに書いた詩の中に、『君はまるで暗月のよう。暗く、冷たいその月は、雪を纏ったかのような肌と月のように輝く瞳にそっくりだ。それは私にとって儚い一筋の光となろう。』っていうのがあってな。それからだ。」


「おぅおぅ、粋な詩を書くじゃないですか。じゃあ『暗月』で…うふふ…なんか嬉しいです。そんな素敵な詩を書いてもらったなんて…」


とても嬉しそうに微笑む。


「ありがとう…俺も嬉しいよ。あとはサヤの名前だな。そういえば、フルネームは?」


ここまで来たというのに、フルネームすら聞いていなかったことを思い出した。


「ん?私の家は剣道の家庭だから和風です。サヤ・クロガミ。」


「そうなのか…初めて知ったよ。」


「終わりましたね~。…暗月ですか!いい名前です。って、サヤ・クロガミさん!?剣聖の!?」


「あ、はい。そうですよ!訳あってパーティ抜けちゃったんですけど…」


うんうんと職員の女性は頷く。


「剣聖の方がいらっしゃるなら、この街は安泰ですね!申請完了となります!ランクはDからのスタートですので、依頼もDまで受けられます。」


「ありがとうございました。早速依頼、受けてみますね。」


二人は職員の女性にお礼をして、依頼の貼られたボードに向かった。

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