第5話 魔王の紋章

「ここがお前さんたちの部屋だよ。どうぞ、お楽しみにな!ガハハ!」


「え?この部屋…!?」


見渡す限りのピンク。一つのベッド。ハートのクッション。


完全にラ○○である。


「アルバートの推薦って言われたら最上級の部屋用意しねぇとなぁ!防音性だから心配すんなよ!」


そう言って、ガンツは受付に戻ってしまった。


「いきなりこのシチュエーションはキツすぎる…!アルバートの奴、やりやがったな…」


「れほぉ?へやにふいふぁ?(レド?部屋に着いた?)」


「部屋着いたぞ。起きた時混乱するだろうが…」


とりあえず、ベッドにサヤを寝かせる。


「ベッド一つだから、俺は床で寝るか…」


すると…


「うー…頭痛い!」


サヤが痛みに悶え始めた。

慌てて駆け寄り、声をかける。


「サヤ、大丈夫か!?」


「頭痛い…!何かが流れ込んでくる…!」


背中をさすって、痛みが緩和されるよう促した。


「……………………」


今度は、サヤが動かなくなった。


「サヤ、痛み大丈夫か…?」


「……レド様…?」


顔を上げてレドの方を見る。

その様は、前世のサヤそのものであった。


「レド様…!レド様…!」


泣いてレドに抱きつく。

レドは状況をあまり理解できていない。

なぜ、前世の呼び方?自分に抱きつく?

そこでサヤに尋ねる。


「俺が、君にプロポーズした場所は…?」


「桜の木の下!いつもの公園です!」


二人で涙を流しながら、ギュッと抱きしめ合う。


「サヤ…戻ってきてくれたんだな…!よかった…会いたかった…!」


「レド様…!黄泉の国を越えてまた会えて…もう何と言ったらいいか…」


「こっちに来てからの記憶はあるか?」


サヤは首を振る。


「ここがどこかもわかりません…レド様と心中したことだけは覚えておりますが…」


「記憶はそこまでか…ここは異世界といって、俺たちがいた世界じゃない。魔法も存在すると聞いた。」


「手から炎が出る現象などですね!あれが実在するなんて…」


「でも記憶が戻って…本当に良かった…!」


ハッと何かを思い出したサヤ。


「癌は完治したのですか…?」


「癌か…前世では煩わされたものだが、今は大丈夫だ。何も心配ない。」


レドとサヤが心中を図った原因は…癌だったのだ。

二人が仲陸まじく暮らしていたとき、レドを癌が襲った。

数歩歩くのも精一杯で、寝たきりが多くなっていたとき、耳にしたのが黄泉の国だった。


そこでならまた普通に戻れると信じ…二人は橋から飛び降りたのだ…


「よかった…もし癌が残っていたらと思って…うぅ…」


また泣き始めてしまった。

しかし、しばらくすると元気になりこう言った。


「でも…これでやっと夜伽ができます!」


「ちょっ…サヤ!?何を言い出し…」


レドを押し倒すようにしてキスをした。


(やばい、忘れてた…サヤって結構肉食系で…!)


「もう逃げられませんよ?レ・ド・さ・ま…!」


レドが喰われそうになったとき…


バタンッ…


サヤが倒れた。


「サヤ…?どうしたんだ!しっかりしろ!」


サヤの顔を見ると、額に何か浮き上がっている。


赤く不気味に光り、読めない文字が刻まれている紋章のようなものだった。


レドの頭に声が響く…


「我、その娘の魂の番なり…その娘は我のもの…手を出すことなかれ…」


「誰だ!?サヤに何を…」


「我はこの世界の魔王なり……逃げ場は無いぞ…覚えておけ!我の名…魔界の王、ファーミラを!」


そう言うと、頭の中の声は消えていった…


「魔界の王だって…?何が起こっているんだ…サヤ、大丈夫か?」


「んむぅ~…もう飲めな…え!?」


目を覚ました様だ。


しかし見えたのは、レドの上に乗っかって、少し服がはだけている自分の姿だった。


「ほわぁぁぁぁあ!?」


ベッドから転がり落ちて、レドと距離を取る。


「あの!何があったんですか!?私、レドのこと襲おうとして…!?」


「あー…酒に酔ってたから変な気を起こしたんだよ。俺もびっくりしたけど…」


少し気まずい空気になる。


「その…ごめんなさい…嫌だったでしょう…?」


「記憶…無いのか…?」


前世の記憶が無いのか尋ねる。


「ありません…襲おうとしたなんて…!恥ずかしいですぅ…」


残酷な現実に、レドは絶望した。

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