第4話 賭け

「おら、スライムの魔石持ってきたぞ!俺たちにとっちゃ雑魚の中の雑魚だがな!ハハハ!」


すると周りの冒険者も煽り始める。


「それは誰と誰が狩ったんだぁ?マリケス殿ぉ!?」


「そんなの俺とヒルダに決まってんだろ!?へっぽこ剣聖は指咥えて見てろっての!」


ギルドの連中全員に指をさされ、笑われる二人。

レドがサヤに耳打ちする。


「いつもこうなのか?」


「…はい…いつも、手柄はマリケス様たちのものです…」


「あ?剣聖、なんか文句でもあんのか?」


ぶんぶんと首を振って否定する。


「いえいえ!マリケス様がいなかったら死んでました…感謝致します…」


「ハハハハハ!!また形だけの剣聖がぼそぼそ言ってやがる!」


皆に笑われているが、うつむいて何も言わない。それをレドが黙って見ている訳もなく…


「おい、スライムはサヤが狩った。それは認めろよ。マリケス殿。」


「おいおい、言いがかりはやめとけよ?実際そうだったんだからな。」


「じゃあ…サヤ、あそこの樽切れるか?」


レドが指さす方向にはビールの樽が。


「できますが…なぜやるのですか?」


「君の実力を示すためだ。こいつらは間違っている。見せつけてやれ。」


樽との距離は五メートルほど。

サヤの刀では、到底届かない距離だ。

周りの奴らは更に煽る。


「こいつが樽切れるかどうかで賭けようぜ!ま、全員無理に賭けるだろうけどな!」


そんな中、一人が声をあげた。


「俺は剣聖に200ドルだすぞ!」


皆がその声の主を見る…

そこには、青髪の青年がいた。


「おいおい、負けのわかってる賭けなんぞ面白いかぁ?」


「俺は信じてる。剣聖に賭けるぜ。おい剣聖のねーちゃん!頑張りなー!」


周囲がざわつきながらも、賭けが始まった。

もちろん、あの青年以外にサヤに入れた者はいないが…


「サヤ、居合いなら派手なんじゃないか?」


「は…はい!居合いですね…」


刀を構え、呼吸に集中する。


「今…!」


サヤが走り出し、樽を通り過ぎる。


「何も切れてねぇぜ!?こりゃ文句無しの負け…」


バラバラ…


「はぁ!?」


樽は細切れになり、床に転がった。


「んじゃ、俺の勝ちってことで。チップ回収すっから、集まってくれよな!」


皆、しぶしぶ青髪の青年にチップを渡しマリケスに迫る。


「どういうことだ!あいつは役立たずのはずだろ!?」


「し…知るか!お前らが賭けたんだろ!たまたまだよ…」


周囲から、マリケスへ疑惑の目が向けられる。


「んじゃ、剣聖のねーちゃん!お礼代わりに一杯奢らせてくれよ。」


「い…いいんですか?ありがとうございます!レド、行きましょう。」


「俺もか?じゃあ遠慮せず行くぞ。」


三人でさっさとギルドを出て、酒場に入った。


「その…さっきはありがとうございました!お名前は…?」


「俺はアルバートってんだ。よろしくな!」


ニシシと笑って握手を求める姿は、かなり親しみやすく二人も心を許した。


「エール3杯、頼むよ!」


「かしこまりました~アルバート様!」


「様?どっかのお偉いさんか?」


するとアルバートは二枚の名刺を差し出した。

二人はそれを受けとる。


「俺はこの街を拠点にしてる、アルバート商会の会長だからな!この店は俺が管理してるんだぜ。」


「すごい偉い人じゃないですか!」


「まーな!何かあったらその名刺突きつけてやんな。大体は追っ払えるぜ。」


二人でアルバートに感謝を述べ、乾杯する。


「私、お酒弱いから大丈夫かな…」


「俺がいる。大丈夫だよ。」


「まだ会ったばっかりですよ?そんなに信頼できません。」


二時間後…


「あるびゃーとさんありぎゃとーごぜいやすぅ…(アルバートさん、ありがとうございます)」


「はは…かなり酔ってるな…」


「ここまで警戒薄い人初めて見た!アッハハ!」


サヤは机に突っ伏してしまい、顔は真っ赤。

酒が回ったからだろうか…レドも語り始める。


「アルバート…聞いてくれるか?」


「なんだい、聞くとも聞くとも…」


「俺、転移してきたんだ。」


アルバートはエールを吹き出す。


「どういう風の吹きまわしだ!?お前が転移してきたって?」


「それで…サヤは俺の…前世の妻なんだ。」


「ちょいちょい、待てよ…熱狂的なファンなんだな?わかるわかる。そういう時期俺もあったから…」


最初はアルバートも疑っていたが、レドの顔を見て悟る。


「…マジか?」


「ああ、そうだ…だが、サヤに記憶は無い。それを思い出させるために今、頑張ってるところだ。」


「なんだそれ…めっちゃ切ないな…他の男好きになっちまったらどうすんだ?」


レドは黙りこんだ。

ここに来てから、レドがずっと危惧していたことだった。


もし、サヤが他の男性を好きになってしまったら?


愛する妻が、自分以外の男を愛すなんて考えられない…


「可能性としてないことはない…それが怖いんだ。すごく怖いんだよ…愛する妻が…他の男と愛し合うなんてこと、考えられない…!」


涙を流しながら、アルバートに真実を伝える。

アルバートが背中をさすって、慰める。


「そう嘆くなよブラザー…絶対にそんなことはない。お前はいい奴だ。落ちない女はいないさ。」


「…慰めなのかわからないけど、ありがとう。俺たちは宿に泊まるよ。」


「特注の部屋用意してやるから。おーい!ガンツのおっさん!宿、一部屋空けといてくれ!」


「あいよー!アルバート、何人だ?」


「二人だー!頼んだよ!…………よし、これでOK。レド、あのおっさんについていけばいい。」


レドはお礼をして、酒場を後にした。

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