第一章・水色の名残雪

「異世界の人間でも構わないのでは? ルーチェさんなんて守り人なのに今、僕らにとっても馴染んでいるし……まあ、戦線に関わったのもあるのでしょうけど」


 アズロが小首を傾げると、フィンは何かを思い出したように微笑む。

 懐かしんでいるような、羨ましく思っているかのような……不思議な表情だった。


「あー、彼女は寿命も君らと一緒になったしな。後続の界の守り人が私一人だったからか『色々好きにさせて下さいね』と鋭い眼差しで言われたよ」


 一人……


 アズロはフィンのその言葉に、かつてセレス上空から見た地上を思い出す。


 広く広い、世界。

 つながっている世界。


 けれど、一人で空を飛んでいる時には、嫌でも思い出した。

 自らがラナンキュラスの最後の人間で――空を泳ぐ時、前方を飛ぶ仲間はいないのだ、と。


「フィンさんも、ルーチェさんみたいに皆に馴染んではいけないんですか?」


 かつて、ジェイと会うあの日まで……ラナンキュラスの規律を重んじてきた祝子(はふりこ)とは思えない言葉に、アズロ自身驚いていた。

 対するフィンも、意外そうに瞳を見開く。


「──。──いけない、というのは君も知るようにそもそも大前提だが……。例えば、私に関わる記憶だけを、ネウマ君から消してしまうことも可能だ。ゆえに、ある程度行動を共にする分には問題ない。だが……深く記憶に関わることは、できない。エイシア君はあくまでも側仕えとして、セレス以外の知識は伏せ通したようだが……今、ネウマ君が居るのは安全な神殿の外だ。巫女という要所にいたネウマ君の命を狙う者もいるだろう。その危険から身を守るために、今後もある程度、私自身の知識や力を表に出さねばならない。……アズロ君、この子は『知識を抱いた無知な子』だ」


 希望と現実とを照らし合わせながら、語った。

 フィンの揺らぐ瞳は、いつかアズロを眺めた長老、エドゥカドルの瞳と重なる――。


「――なるほど。巫女という要所にありながら要の知識以外に乏しく、生きる上で学ばねばならない知識も技術も多すぎる……昔の僕に似ている、と?」


「そうだ。君にとっては苦痛だろうが――祝子だった君ならば、ネウマ君の心境にも近づけるやも知れぬと」


 フィンは、すまなそうに言葉を発した。


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