第一章・水色の名残雪
「やあ、どうも奇遇ですねー。シェルター便利でいいなぁ、羨ましい」
誰も入って来られないはずの入り口が、不意に開く。
緩やかな声には聞き覚えがあり。
瞬時に飛び起き構えた姿勢は保ちつつも、フィンは笑って応答した。
「誰に教わったか知らないが、異世界の結界まで破らないで頂きたい。……まあ、君が来て助かったがな」
「助かった? ああ、そこの女の子、西神殿のネウマさんじゃないですか。何、フィンさんアクアから拐って来たんですか?」
「拐っていない、体当たりされて殺されかけた」
「それはまた豪快な……。アミィみたいだ。何はともあれお久しぶりです、奇想天外を受け継いだフィンリック学長」
肩より長く伸びた金髪をゆるく結わえた、どこかあどけない少年のような青年が微笑み、フィンは苦い笑みを浮かべる。
「久しいなアズロ君、一年前の会合以来か。学長呼びやら奇想天外やらは止めてくれ、変な奴と一緒にされたくない」
「ルーチェさんが、エスタシオンさんとフィンさんは腐れ縁だって……」
「腐れ縁――ま、そんなものか。だが、腐れ縁は腐れ縁でも性格は異なる。その辺は理解するように」
「はい、解りました」
解っているのか解っていないのか、アズロと呼ばれた青年は青い瞳でじっとフィンを見据えたまま、二度ほど首を縦に振った。
少しの間沈黙したフィンだが、視線を泳がせた後、ため息とともに声を発する。
「――単刀直入に言う。困っている」
フィンの発言に、アズロは一瞬目を丸くし、次の瞬間、堪えきれなくなったように吹き出した。
「――ふ。あははっ、フィンさんは僕より伝え下手ですよね。けっこう素直なのって、素敵だと思います」
「笑うな。領主やら学長やらは基本的に頼る機会が無いんだ。どう言葉を交わせば良いのか、忘れてしまったんだ……」
「困っているから力を貸して、で良いのでは? それはさておき──フィンさんはネウマさんの今後の扱いに悩んでらっしゃる。界の守り人が巫女と旅していいのか、迷っているのですか?」
「ああ……。君とて特殊な立場なのは理解している。しかし、私はセレス人どころか、異世界の人間だ」
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