第一章・水色の名残雪

「服を見繕うのも慣れてらっしゃるのですね、素敵です」


 長い長い巫女服から一転、旅慣れた女性に見えなくもないネウマの着ている服は、フィンが数分とかからずに選んだものだった。

 サイズもちょうどよかったらしい。


「慣れているというか──酷く面倒くさがりな幼なじみが居てな。私はしばしばそいつの衣類やら本やら本やら本やらを買いに行っていたんだ」


「本が多かったのですね」


「ああ……あいつは一気に十冊買って来てくれとか頼みやがったからな。数百ページもある分厚いやつを十冊な……」


 ほわほわと笑いながら「これ連作なんですよ、次の十巻をお願いしますね」とかほざく幼なじみ。

 フィンとは最初から立場も何もかも異なっていた幼なじみは、いつまでたっても幼なじみだった。

 幼なじみとはいっても、初等科くらいからで、幼年期は知らない。


「もしかしたらその幼なじみさんって、エイシアお姉さまがよく仰っていた方かしら? 『僕とあの人は同類なようで、そうでもない。どこまでも掴み所のない不思議な人なんだよ』って……」


「エイシア──お姉さま……か。ピュアにそう語る君の表現には少々疑問を感じるが……まあ、確かに奴とエイシア君は似ているな。しかし、まあ……同類では、ないのだろう。若干エイシア君の方がまとも……か?」


 街道付近に構えたシェルターの中に座り、額を押さえて唸るフィンの頭を、ネウマは立ったままポンポンと柔らかく叩いた。


「兄さま──とと、今は大丈夫ですよね。フィンさんは、何をそんなに悔いているのです?」


「ん?」


「幼なじみさんのことを語るフィンさんは、喉を閉じますよね? 息を止めるように、逸らしてらっしゃる。フィンさんは抱えすぎではありませんか?」


「……言えることならば、抱えたりはしないさ」


「言えることならば、ですか……。私には、言えませんか? 初対面ではありますが、今まで巫女だった者です。口外しないと誓いますわ」


 澄んだ紺碧の瞳が、フィンを見据える。

 まっすぐに下ろされた長い水色の髪は、記憶の蓋をくすぐった。


「はは……無垢だな、君は。……大丈夫。言えなくて良いのだよ、これだけは、な」


 いつしか共に歩むのが当たり前になっていた奴との日々。

 奇想天外だらけの日々に、奴の足跡に、泥を塗る気にはなれなかった。


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