第一章・水色の名残雪
「……そうだな、それも旅というものか」
見た目まだ14、5歳のネウマに諭されることに抵抗を覚えつつも、フィンは諦めたように微笑んだ。
視界に入った白い髪を後ろへと流しながら、小声で呪文を唱える。
「――こちらが私の本来の姿だ。まずは君の服やら色々揃えねばならんだろう? 家族連れにでも見せかけた方が良いかと思ってな」
白く長い肩までの髪は、首もとできつく結われた淡い金髪へと変化する。
フィンの身長は、ネウマとあまり変わらなかった先ほどよりも高く――成年男性の標準身長ほどになっていた。
「やっぱり、大人のかただったんですね」
ふわりと笑っているネウマの反応は、予想していたもので。
「君こそ、気付いていたんだな」
「微弱ながら、不思議な力を感じましたから」
「それは――」
「はい、勘ですわ」
「……」
どんな勘だよ、と突っ込みながらも、フィンは改めて自己紹介をする。
どうにも隠し事は苦手であるのと、ネウマの勘には勘以上の何かを感じた所以だ。
「あー……、私は、フィンリック・ルシェードという。歳はこちら換算では30くらいだ。君の側仕えをしていたエイシア君の同胞だと思ってくれて構わない。ああ、性格はくれぐれも混同しないように」
「30ですか? あら、20くらいかと……」
「うっ……。ど、童顔で……すまない……こればかりは……どうにも……老化が進まないと……威厳が……ないとは……よく言われ……て……」
「ふふ、意外と可愛らしいお方なのですね」
「はっ? 可愛……!? 君は一体どこからそんな言葉を引き出して来る?」
「さあ? 存じませんわ」
遥か故郷で学長後任に任ぜられて以来久しく見せていなかった、フィンの素に近い対応を、ネウマの挙動はいとも簡単に引き出してゆく。
掛け合いに懐かしさを覚えて、空を見上げた。
薄れ行く青い空は、夕刻の訪れを告げ始めている。
「――日暮れ前に買い物を済ませて、アクアを出よう。そうそう使えないが、アクア内部の宿よりは安全なシェルターを形成できる」
「ええ、ありがとうございます。助かりますわ、兄さま」
「兄さま……?」
「家族連れを演じるのでしょう?」
「あ、ああ……そうだな。では、この姿の時はそれで宜しく頼む」
父さま、と呼ばれない童顔を気にしつつ、フィンはネウマの旅装束探しに奔走した。
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