詩 『彼女に首ったけ』



「愛している」

「そう、僕もだよ」


 で、

 それって美味しいの?


 僕は

 彼女を失望させた

 すっごく不味いことを言ったんだと思う

 分からないけど

 取り返しのつかない事を言ってしまったんだ


 

 彼女は去った

 

 だから僕は右腕を切り離した

 彼女がもう触れないでと言ったから


 両足を切り離した

 彼女がもう追いかけて来ないでと言ったから


 残された手で

 首から下を切り離した

 彼女が嫌う 愛を知らない汚れた体だったから


 だけれども

 彼女が一番嫌う僕の舌は切れなかった

「愛してる」

 もう一度、言い直して伝えたかったから



 僕は頭だけになって

 彼女を呼び続ける


「ごめんよ。愛してる。愛してる」


 彼女は戻って来てくれた

 僕を両手で取って

 キスをしてくれた

 ポリバケツに捨てる前に

 たった一度だけ


 僕は生ゴミにまみれながら

 恋しくて恋しくて

 彼女を呼び続けた


「ごめんよ。愛してる。愛してる」

 

 僕はようやく

 愛を知ったんだ


 

    自作:『君に首ったけ』のイメージ。


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