第16話 おかしい事は、おかしいんだ
学校では仲間外れになっているので、常に警戒して本心を明かさないボクだが、ボクのために戦ってくれたクロイさんには対しては素直に本心を喋る事が出来た。ボクは学校の状況を話し、クマノヴィッチに逆らっても無駄だし、また暴力をふるわれるかもしれない、次は殺されてしまうかもしれないとクロイさんに言った。
「おれは、絶対に諦めないぜ。おかしい事は、おかしいんだ。」
クロイさんは静かにそう言った。
「クロイさんは、しつこい性格なんですねぇ…」
「粘り強いとか、しぶといとか、タフだとか言ってくれ。」
「あ、すいません。」
そうこうするうちに時間は過ぎていき、太陽が西に傾いてきた。高緯度地域のイクルーツクの夏の日没は遅く、夜9時を過ぎることもある。ボクはあまり遅くならないうちに家に帰らなければと思った。
「そろそろ、帰りましょう。」
「あー、寮に帰りたくねぇなあ…」
「寮が嫌なんですか?」
「ああ、設備は古いし、飯はうまくないし、ちょっとな…」
ボクは、もう少しクロイさんと話していたいと思った。だから、ボクはクロイさんをボクの家に誘う事にした。
「クロイさん、だったら、ボクのうちに夕食を食べに来ませんか?」
「クマイ、いいのか!?」
「今日のお礼です。ボクの家族はみんな日本語が喋れますし、姉も日本人に会ってみたいと言っていましたから!」
ひどい一日だったが、いまボクはなんだかウキウキとするものを感じた。なんだか、クロイさんと一緒にいると楽しいのだ。理由はわからないが、直感的に通じ合えるものがあるのだろう。
家に帰る道すがら、ボクは日本の鉄道についてクロイさんに質問した。
「日本の鉄道技術は優れていると聞きますが、実際はどうなんですか?」
「まあ、おれはマニアじゃないから詳しくは知らないけど、列車の本数はめちゃくちゃ多いな。東海道新幹線なんかは、1時間に12本くらいあるって聞いたことがあるぞ。」
「1時間に12本という事は… 5分に1本ですか!!」
ボクは腰をぬかしそうになった。イクルーツク市電だってそんな頻度では発着していない。最高速度こそフランスのTGVなどに負けてはいるが、高速列車がそんな頻度で発着してこれまで大きな事故をおこしていないのなら、安全性と輸送力では新幹線はダントツのトップでは無いかとボクは思った。
そんな話をしているうちに、ボクたちは家についた。ドアを開けて家にはいると、ボクはリビングに向かった。夕食の準備をしていた母に、友達を連れてきたから、夕食をだしてあげてくれないかと頼んだ。
「ミーシャが友達を連れて来るなんて、珍しい!」
母はそう言ってとても喜んだ。さっそく、リビングのテーブルの上にはケーキやら紅茶やらが並べられた。
「ミーシャが友達を連れてきたって?」
母から話を聞いた父も、書斎から降りてきた。
「この
姉も気配を察して部屋から出てきた。
こうして、クロイさんを囲んでボクの家族が勢揃いし、皆で夕食を囲むことになった。なんだか、ボクは久しぶりに自分が心から笑えているような気がしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます