第12話 奴隷の日々

 今日から例の留学生が来た。なんだか小柄で黒い珍しいクマだった。ヒグマやホッキョクグマを見慣れた目には新鮮に映る。でも、今のボクにとって留学生が来たとかそういう事に関心をもてなかった。ボクの大事なノートは取り上げられたままだし、今日もまた「奴隷」として仕えなければいけない。


 今日も朝からジュースを買いに行かされて、例によって何度も足をかけて転ばされ、ひどい目に遭っている。さらにひどい事に、ボクが転ばされると、関係ないクラスメートまでそれを笑うのだ。


 もともと孤立気味ではあったけれど、自分がいじめられているのは良いにしても、それを他人に笑われるのは本当につらい。おそらく、ボクをバカにすることで自分がクマノヴィッチの次のターゲットにならなくて済むから、ぼくをバカにしているんだろう。それにしても、苦しくて、くやしい。休み時間は何かしらの嫌な事が起こるから、少なくとも先生がいる授業の時間だけが救いだった。


 数学の授業、社会科の授業、化学の授業、ボクはただ授業にだけ集中していた。授業を受けている間は、とにかくつらい現実から逃れられるからだ。


 昼休み、ボクは食堂でクマノヴィッチとセルゲイにランチをおごらされた。昨日から色々なものを買わされて、手持ちのお金が無くなってしまったボクは彼らがランチを食べるのを見ながらお腹を空かせていた。


 「あれ、クマイ、なんでランチ食べないんだ?」


 わざとらしくセルゲイが聞く。


 「ボク、なんだか食欲が無くて…」


 ボクは心にもない愛想笑いをする。


 そして、午後になる。英語の授業、国語の授業…と、時間は進んでいく。今日こそは、ノートを返してもらわなければならない。もう、こんな生活を続けるのは嫌だ、そうボクのこころが危険信号を発しているのがわかる。


 終業後、ボクはクマノヴィッチのところへ行った。


 「ノートを返してください。そして、もうノートを取り上げたりしないでください。」


 そうボクは言った。


 「ああ、じゃあ、その前に今日の奴隷活動の最後として、俺達にジュースを買ってこい。」


 クマノヴィッチがそういった。


 「すみません、ボクもう手持ちのお金が無いんです。」

 「そうか、じゃあ、明日も奴隷だな。明日は金持って来いよ!」


 そう、クマノヴィッチは冷酷に言った。その時、ボクはもういいやと思った。もうこれ以上は沢山だと思った。


 「ボクはもうそんな理不尽な命令に従う気はありません。ノートはボクの物です。すぐに返してください。あなたたちのいう事を聞く気もありません!」


 ボクは、きっぱりと大きい声でそう言った。教室内が、シンと静まり返る。


 「そうか、じゃあ、返してやるよ。」


 クマノヴィッチはそう言うと、ボクの大事なノートを引き裂き、紙吹雪にするとボクの頭の上からパラパラと振りかけた。クラス内には再び笑い声が起こった。ボクはショックと悔しさで、涙が出てきた。ばらばらに千切れたノートの破片を拾い集めようとしたとき、ボクの横を黒い影が通り過ぎるのを感じた。

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