第11話 到着はしたものの
次の日も一日、それなりに変化はあるが退屈な列車の旅が続いた。張さんの買った弁当も徐々に減っていき、ずっと列車に乗っていると酔ったのかダルくなってきた。帰りは何とかして飛行機のチケットを買って、直接日本に帰ろうとおれは固く心にちかったのだった。
そんなこんなで時間がたち、4日目の午後になってから景色はガラッと変わった。ウラン・ウデという駅を過ぎてから急に綺麗な海岸線が見えてきて、こんどはずっと海岸沿いの風景になったのだ。海岸線には草原がひろがり、ところどころに青々とした木がポツン、ポツンと生えている。そして、その向こう側にはロイヤルブルーに輝く水面がどこまでも広がっている。
「これは、海ですか?」
おれは張さんに聞いた。
「違うよ、これは
なるほど…、と思ったおれは、スマホでバイカル湖について調べてみた。なんでも世界最古の淡水湖で、透明度も世界一を誇るということだ。驚くべきことに最大水深は1741mに達するという。チョウザメやサケ、アザラシなどが住んでいるうえに、まだまだ未確認の固有種がいるかもしれないという特殊な湖らしい。そう思うと目の前の綺麗な湖がいっそう貴重なものに思えて、おれはバイカル湖に目を凝らした。
深い青紫の湖面を眺め、異国情緒に思いを馳せていたが、いつのまにか湖は消え失せ、黄色や赤などのカラフルな色の、いかにもロシアらしい一軒家が増え始めた。いかにもソビエト時代の香りがするくすんだグレーの大きなコンクリートの集合住宅の群れをぬけ、大きな川を渡ると川沿いに電波塔や観覧車が見えた。そして、ビルの数が増えてきたな…と思ううちに列車はイクルーツク駅についた。
「張さん、いろいろありがとうございました!!」
「
おれは、張さんと固く握手をして「ロシア」号のタラップを降りた。駅のロビーで例のガイドと落ち合う事になった。
「クロイさん!ハラショー!」
「どうも、よろしくお願いいします。」
心の中では、ちっともハラショーじゃねえよ、張さんに会ってなかったから、ここまで来れてねえよ、と思う。が、とりあえず笑顔でガイドと握手して、彼の車に乗り込んだ。
車は市街を離れ、住宅地から森に入り、その先に「イクルーツク州立獣類学校」があった。車は正門前を通り過ぎて隣の敷地に入り、武骨なくすんだ灰色の建物の前に止まった。
「ここが、クロイさんの寮です!ハラショー!」
ガイド氏はやたら陽気だが、例によってソビエトまる出しの古いコンクリートの寮を見ておれは落胆した。玄関を入って自分の部屋に案内され、一通りの説明を終えると、ガイド氏は帰っていった。
夕方、食堂に行くとロシアらしくヒグマやシロクマがぞろぞろ集まっていて、みな無表情で硬いパンを齧りながらスープを飲んでいた。料理の名前はわからないが、お世辞にも美味しいとはいいがたく、おれは閉口した。「カップ麺でも持って来ればよかったかな…」そんな風におれは思った。
少なくともこれからしばらくの間、食生活の面では厳しい事になりそうだ。どこか、うまい料理を提供してくれるレストランを探さないといかんな、とおれは思った。
夜、床に就くと夏と言えども気温は10℃近くまで下がることがある。寒さに弱いおれは毛布を重ねまくって震えながら眠りについた。
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