第9話 実行すること

 その日一日、列車は代わり映えのしない畑やら森林地帯やらをひた走り、たまに街に停車して、を繰り返して過ぎた。なんだか日本では見ないような巨大な貨車やら機関車やらが停車しているのをたくさん見かけるが、そもそもあまり興味が無いのでおれにとっては退屈な光景でしかない。


 大自然も最初のうちは感動を覚えるが、1時間もすれば退屈な針葉樹林の連続と鹿思えなくなってくる。勢い、楽しみは昼飯と夕飯になるわけで、張氏とおれは例の加熱パックで温めたアツアツの炒め物や点心をほおばった。こんな縁もゆかりも無いガキの面倒を見てくれる張氏には頭が下がるが、同時に疑問にも思った。


 「張さん、いろいろ有難うございます。」

 「いいよ、いいよ、気にしないで。」

 「一つ疑問に思ってたんですが、なんでおれにこんなに親切にしてくれたんですか?親父の会社が新しい商売になりそうだからですか?」


 なんとなく、おれはちょっと嫌味かなと思いながらも疑問をぶつけてみた。 


 「哈哈哈ははは、もちろんチャンスはなんでも逃さないよ。でも、それだけでもない。」

 「と、言うと?」

 「私、早くに父親死んだ。だから、クロイさんくらいの歳から働いたよ。その時代の中国は貧しいよ。故郷の四川省から大連まで、特産品を運んで売る。大連で仕入れをして持ち帰る、そういう仕事をしてた。」


 張氏は少し遠い目をしながら続けた。


 「あるとき、私、大連で悪い奴にお金、商品、荷物、全部取られたよ。もう何もない。帰れない。私、ここで死ぬしかないと思ったよ。まだ子供だからね、絶望はすごかったよ。そのとき、たまたま通りかかった優しい老熊ラオションに助けられたね。家に泊めてくれて、ご飯食べさせてくれて、帰りの汽車賃を貸してくれた。……そういう恩があるから、困っている人がいたら、出来れば助けたいね。」


 人に歴史ありだな、とおれは思った。単純な理由だけど、ちゃんと実践できていることが素晴らしいとおれは思った。


 「張さんは、思ったことを実行するどうぶつですね。」


 おれは素直に感想を言った。


 「そうだね、思ってるだけでは何も起こらないよ。生きる時間も長くない、出来ることはやるほうがいいね。」


 さらっと言ってのけるが、口だけ偉そうなことをいう奴は幾らでもいる。小さなことでもちゃんと実行するのは偉いことだとおれは思った。おれも将来は思ったこと、決めたことをきちんとを実行できるクマになれるだろうか? そんなことを考えながら2日目の床についたのだった。

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