第4話 学校は憂鬱だ

 今日は土曜日なので、学校にいかなくていい。なので、ボクは家で大好きな鉄道の本を読んでいた。ソビエト時代に作られた、有名なFD21型と呼ばれる蒸気機関車の開発史だ。機関車の重量・動輪直径・シリンダー直径や出力などをどうやって決めていったのか、自分でノートに書いて、設計条件を再計算しながら読んでいた。インターネットでも性能を調べたり、日本語版のWikipeidaでサイズが良く似ている日本のD51型蒸気機関車のスペックを調べて、性能比較をしたりした。日本の鉄道技術は優秀だし、母に日本語を教わって良かったと思う。


 こうやって自分の頭の中で遊ぶのは楽しい。誰もボクをいじめたり、馬鹿にしたりしないからだ。こうやって勉強していても、学校ではひ弱な※1タニックと呼ばれて馬鹿にされてしまう。どうせなら※2カニックとでも呼ばれた方がマシだけど、結局、馬鹿にされているのは変わらないかもしれない。


 昔の技師たちも、こんな風につらい思いをして勉強していたのかなと思うと、なんだか本の中のFD型を設計した技師たちにも親近感が湧いてきたりする。勉強すること自体は好きなのに、なんで自分はむくわれていないのかな、将来は社会のために役に立ってちゃんと評価されるのかな、などと色々な思いが胸に渦巻き、なんだかつらい気分になってしまった。


 「ミーシャ、入っていい?」


 ドアを軽くノックする音と、姉の声がした。


 「はい、どうぞ。」


 答えると姉のマーチャが部屋に入ってきた。


 「聞いたわよ! 月曜から日本の留学生が来るんでしょ?」

 「そうらしいですね。」

 「わたし、今、日本の陰陽師オンミョウジに興味があるのよ!」

 「オンミョウジ?」

 「そうね、中世の日本の霊媒師のような、悪魔払いのような、そんな仕事よ。」

 「なるほど、姉さんの好きそうな話ですね…」

 「いろいろ教えてほしいから、来たら紹介してね!」

 「わかりました。」


 やれやれ、目立つことをしたらクマノヴィッチに目を付けられるし、姉は紹介してほしいというし、なんだか週明けは面倒くさい事になりそうだな…と思うとまた気持ちが沈んでしまった。


 ふと、本棚に目を向けると、少し前に亡くなった大好きなおじいさんと一緒に、撮った写真が目に入った。以前、おじいさんと一緒にモスクワ - サンクトペテルブルク(旧レニングラード)旅行に行った時の写真だ。二人で、ロシア革命で歴史的存在となった、記念艦・防護巡洋艦アウローラの前で撮ってもらった写真である。


 あの頃は、楽しかったなと思う。小さくて、無邪気で、おじいさんと一緒に旅行に行ったり、鉄道工場に行っていろいろな事を見聞きした。こんな力強い機関車をボクも作りたい、そんな夢でいっぱいで、幸せだったな、などと思っているうちに、ボクは眠りについていた。



※1 ロシア語で植物学者を意味する。転じてオタクやナードの意味として使われる。


※2 ロシア語で機械工学者の意味。

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