第3話 ウラジオへの船旅

 列車で新潟までつくと、おれは出航までの時間を新潟名物のへぎそばや、のどぐろの刺身を食べたりして時間をつぶした。正直に言っておれはロシア語が一言も喋れない。何もわからないのに留学もへったくれもあったものではないが、取りあえず船の中で付け焼刃の勉強をするとして、あとはスマホの翻訳ソフト頼みでしのぐしかない。とりあえず港についたら、ロシア側の担当者が用意してくれたバスで寮まで送ってくれるらしい。治安も日本とは違うようだから、注意しなくてはならない。


 乗船して四人部屋の二等船室に入った。まだほかの乗客はだれもおらず、後から来るのかなと思っていたが、出航準備が終わってタラップが上がっても誰も来ない。どうやらウラジオストクまでの移動に船を使うのはかなりレアケースで、普通は航空便で行くもののようだ。所要時間も違うし、そりゃそうだよなと思ったが。広い部屋を独り占めで使えると思うとラッキーだったなと感じた。


 …と、思ったのが間違いで、初めて船に乗ったがこれほど退屈なものとは思わなかった。最初は出航してから陸を離れていくところなどを眺めていると面白かったが、沖に出てしまえばもう海しか見えない、何時間たっても似たような海面しか見えないのだ。テレビもないし、ロシア語の勉強をしようにもなんとなく落ち着かない。しまいにはスマホの電波も届かなくなっておれはやる事がなくなってしまった。話し相手に同室の客でもいた方がよっぽど良かった。そう思いながらボーっとしていると、おれはいつの間にか眠り込んでしまった。


 「……なんだよ、1時か、昼飯は…」


 起きて時計を見ると深夜の1時だった。昼飯を食べようと思ったおれは、船窓から見える景色がいやに暗いのに気づいた。そう、おれはあのままずっと爆睡してしまって、夜の1時になっていたのだった。さすがにこれだけ寝てしまうと、深夜とはいえもう一度寝る気にはなれなかった。仕方なくおれは船内をうろつくことにした。


 新鮮な空気を吸いたくなったおれは、開放デッキに移動することにした。船の上部にあるオープンスペースだ。ドアを開けてデッキに出るとやや強い風が吹いてひんやりとしている。想像していた新鮮な空気ではなく、煙突から出るディーゼルエンジンの排気のにおいがする所だった。が、ふと見上げると、そこには満天の星空があった。そうだ、陸地を遠く離れているので街の明かりが届かないため、星が良く見えるのだ。誰もいなかったのでデッキに直に寝転ぶ。見上げると、それはまるで自分だけのために用意されたプラネタリウムのようだった。


 「こういうのを、星が降ってきそうだ、って言うのかな」


 なんとなく旅に出て初めて寂しい気持ちを感じた。同時に山奥でも見られないくらいの満天の星空になんだかひどく感動してしまった。数時間ボーっと星を見続けたおれは、いい加減寒くなってきたので自販機でカップラーメンを買うと自室に戻った。ラーメンを食べて少し腹が落ち着くと眠くなってきた。気づけば軽い船酔いのせいか、再びおれは寝てしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る