第2話 てつどう好きなクマ

 ボクの名前はクマイル・クマイコフという。ロシアでは愛称の「ミーシャ」と呼ばれている。ロシア国有鉄道のイクルーツク工場に勤務する鉄道技師の父と、中央アジアどうぶつ大学で日本語を教えている母、そして人間どうぶつ心理や占い、そしてオカルトが大好きな姉・クマチェリーナ(愛称は「マーチャ」)と一緒に、イクルーツクの住宅地で暮らしている。


 ボクは勉強は好きだが、学校はあまり好きじゃない。ボクはホッキョクグマとしては身体が小さいし、運動も喧嘩も得意じゃないのだ。クマの社会では、どうしても力が強いやつが幅を利かせている。最近、学校では身長3メートルもあるクマノヴィッチというヒグマが転校してきて、学校を仕切っているのだ。


 こいつは乱暴だし、ボクの物を取り上げたり、パシリにいかせたり、女みたいにひ弱だとののしってきたりする。本当に悔しいけど、両親を心配させたくないし、負けるのは悔しいから出来るだけ無視したり、できる範囲で反抗したりしている。ただ、そのたびに殴られたり、突き飛ばされたりするのだ。


 憂鬱な日常だが、ボクは学校が終わるといつもシベリア鉄道を見ている。鉄道技師である父の影響もあり、ボクは幼いころから鉄道が好きだ。たぶん、ボクが鉄道を好きな本当の理由は、小さいころ、今はもう亡くなった祖父がシベリア鉄道を見せてくれたせいだと思う。祖父は小さかったボクをかかえて線路際せんろぎわまで行き、ずっと鉄道を見せてくれた。


 鉄道を見ているのは楽しい、遠くまでお客を運ぶ旅客列車や、長い長い貨物列車をみるとわくわくするのだ。貨物列車には普通の貨車だけでなく、コンテナや石油タンク、更には自動車やトラック、建設機械、そして時には変電設備の大型トランスのような大きなものまで運ばれていく。なんだか文明社会そのものが動いているみたいに見えるのだ。大きくて力強い機関車を見ると、なんだか元気が湧いてくる。ボクもあんな力強いシロクマになれたらな、なんて思ったりする。


 そういえば、来週、日本から短期の留学生が来ると先生が言っていた。なんでもいいけど、乱暴な奴じゃなければいいな、とボクは思った。母の影響でボクは日本語がある程度しゃべれる。だけど、留学生と日本語で話したりして目立つと、またクマノヴィッチに目を付けられるかもしれない… と考えたら憂鬱な気持になった。ボクは、やっぱりどうしても学校が嫌いなのだ。

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