第2話 進藤の彼女

翌日も終業後の会議室で勉強会をした。


進捗を確認すると、自主学習と決めた範囲に少しだけやり残しがある。

仕事じゃないから見逃すこともできるのだが、望月は長年の営業指導の勘で”決めたことをやり切れない”営業マンは成績が悪いことが多いと知っていた。

そこで進藤につっこんでみた。



「このあたり、やりきれなかったみたいですけど、どうしたんですか?」


「あの…お恥ずかしながら、私は彼女と同棲中でして、ちょっと時間が取れなかったのです。」



望月は、女が男の仕事の足を引っ張るパターンが大嫌いだった。

仕事の調子が上がらない理由が、不仲や家庭サービスだとイライラする。


それほど女が大事ならば、もっと楽な仕事を選べばいいのに。

その女にかまけている時間に、仕事をフォローしている人がいるのだ。

そこに無自覚な男を、さらに女が無自覚に支配している構図には反吐が出る。



この価値観をそのまま進藤にぶつけたいわけではないが、彼女の存在は懸念事項になった。




「彼女はどんなお仕事を?」


「レストランで働いています。ウェイトレスで。」


「じゃあ、休みや一緒に過ごす時間が合わないんじゃないですか?」


「はい。彼女は深夜に帰ってきて、休みは月曜日や水曜日なので、土日休みの私とは合いませんね…。」


彼女との時間は大切だろう。

とはいえ、逆に土日は自分の時間があるということだから、彼女のせいばかりではない。



「しばらくは、早めに出勤して職場で勉強するのもいいかもしれませんよ。」


「はい、そうしたいと思います。」




復習すると、暗記や理解はよくできていた。

やはり地頭はいい。


質問を受けたので解説をしていると、昨日に比べてぼんやり聞いているように見えた。




「もしかして、疲れてますか?詰め込みすぎましたかね。」


「いえ!違うんです!望月さんの解説があんまり上手いんで、聞き入っちゃいました。あと、望月さんて声もいいですよね。」


内容に集中して欲しかったが、照れずに人を褒められるのは彼の長所だろう。



「ありがとうございます。あまり、面白いことが言えないので、せめて説明くらいはちゃんとできないと、と思ってますよ。」


「あはは。同じことを兄も言ってました。やっぱり頭のいい人は似ているのかもしれませんね。」


よっぽど兄が好きなんだろう。

ブラコンは確定だ。

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