第3話 男の話♯2

佐久間の電話の後、2日の間を空け、東京に向かった。


飛行機代だけでも往復5万円、本当に旅費を出してくれるのだろうか。

片道2時間ほどの機内でいやらしい不安が募る。

飛行機は無事羽田に到着した。


その後、佐久間とは東京の某、カフェで16時に落ち合った。


初めて彼と会った印象は、色白で細身で弱々しく感じた。


事前情報が、「彩華がやばい!」しかなかった為、詳しく話を聞きたかったが、取り敢えず見て欲しいとの事、


仕方なく彩華の家に向かうことにした。


家に向かう道中、佐久間は余りにも忙しなく足を動かすので、そのうち、つまづいて転けるのではないかと、こちらまで不安になる。


16:10


「ここです。」


佐久間が指さした先には見覚えのあるワンルームの学生アパートがあった。

玄関の鍵は番号を押すタイプだったので、試しに開けようとしたのだが、番号を変えていたらしく、開かなかった。


まぁ、当然だろう。


仕方なく佐久間に開けてもらったのだが、何となく負けたような気がしてまた少し嫌な気持ちになる。







あの日以来開けることは無いと思っていたその扉を引いた時だった。


あぁ…ぁぁぁ


低く唸る声が聴こえる。さては、顎が外れて苦しいんだな!と勝手に予想したが、現実はそれを大きく上回った。




短い廊下の扉の先に彩華の姿はあった。




異常なほどに白い肌、目は虚ろで、何処を見ているのか分からない。



もう、冬になると言うのに、薄着で四つん這いになり、口を大きく開け、もげてしまうのではないかと思う程、首をぐるぐるまわしている。


「なんだこれ」

思わず言葉が漏れ出てしまう。




その姿はあまりに不気味すぎて

何故、佐久間が彩華の妹に連絡しなかったのか理解出来た。




長いこと風呂に入って居ないのだろう。


キツイ匂いが部屋を取り巻いている。


確かに彩華はズボラな一面があった。

料理したあと余った人参を2日ほどシンクに放置していた事もある。


ただ、風呂に入ることを面倒だと思うような人ではなかったはずだ。


細く白く伸びた手足は一切の色気を感じさせなかった…


佐久間は僕の後ろで泣きじゃくっているが、これを見せてどうしろと言うのだろうか。


改めて身勝手で段取りの悪いヤツだと感じる。

同時に、この問題の解決には長い時間を要する気がした。


今思えば、長い冬が来たことを暗示していたのかもしれない。

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