門扉前の戦い 3
「扉を開くな! 挟み撃ちに合うぞ!」
「貴様に……」
「は、はい」
イリスが命じる。反射的に、一人の兵士が拒否。別の兵士が承諾。前者に食ってかかられて、後者は戦えるのかと返す。沈黙した。
指揮官の傍にしゃがむ。イリスは呼び掛ける。彼からの返事はない。呼吸と脈を確認。弱いがある。早く病院に運びたいところだが。人智を超える力で、宙に浮かせて進む。門扉前に下ろした。
「治療ができたら、良いんだけど」
「あたくし、できますわ」
「任せた」
生きていると、イリスは伝えた。女たちが安堵。侍女の一人が進み出る。足元に、魔人に打ち倒された二人。橙色の光に包まれていた。治療が始まっていると見て取り、場を離れる。
「ネネ、棒を取り寄せて」
「うん」
イリスが頼む。ネネが返事した、次の瞬間。宙に棒が現れる。前腕部ほどの太さと長さの物。掴んで、方端に緑色の石の欠片を仕込む。男の方を向く。
「使ってみろ」
上体を起こして、男は呆然としていた。イリスは棒を放る。我に返り、彼は受け取った。何だろうと、観察を始める。
「ガキでも使える」
<ガキじゃねえ。瑞樹(みずき)だ>
イリスが発した言葉を、ネネが訳す。彼が発した言葉も。風変わりな名前だと思った。
気づくか、イリスは見守った。ケンカ慣れして、上昇志向のある子どもたちは教えがいがある。どんなに厳しい訓練でも、食らいついてくるからだ。
しげしげと、瑞樹は観察する。傷も多いが、使い込まれた物と判る。スイッチと呼べる物は付いていない。試しに、円の面に付いている、緑色の物を押してみる。落として、行方不明。コンタクトレンズを探すくらいに、難しかった。
地面に這いつくばり、捜すこと二分。うまい具合に、光を反射。瑞樹は見つけた。指先にくっつけて、元に戻す。
まさか、ただの棒として使う。緑色の石は、フェイクで。動きを止めるくらいは、できそうだが。さっきの奴に通用するとは思えない。
<伸びろ>
形としては、伸びるとは思えないが。瑞樹は思いついて、言ってみる。緑色の光が伸びた。槍よりも長く。指先で、光に触れてみる。
<あちっ!>
熱い物に触れた、衝撃と痛み。つい、指をくわえてしまったが。毒は含まれてないだろうか。舌にしびれはないが。
<戻れ>
瑞樹の一声。一瞬にして、光は石に収まる。光を見て、もうひとつ思いつく。
<刀が欲しい>
棒を柄と見なして、光の刀身を想像する。SF映画で見た物と、似た物ができた。振り回した後、自分の前に立てて持つ。瑞樹の独り言。
<こいつは、良い>
「ケンカと戦争の違いくらい、判るな?」
<ああ>
時機を見計らい、イリスは声を掛ける。感激して見惚れていた、瑞樹が我に返る。子どもに戻ってしまった、自分が恥ずかしくなる。ぶっきらぼうに答えた。
「今から、体得しろ」
<!>
「試行錯誤できる数だけはいる」
<は!?>
実戦に出した方が、成長する。イリスは判断した。人手不足もある。チラッ、と、兵士を見やった。早すぎないかと言いたげな。彼らが役に立て……。
嫌いだから、忘れていた。彼らが前線に出ていること。管轄者にとって、本意ではないだろう。
刀を持ったばかりで、戦えと言われた。瑞樹は面食らう。敵の数を知らされて、訊き返す。ほとんど、反射的なもの。
「軍に入隊した以上、戦う意思があると見なしたが。逃げるか? 逃げるなら、棒を返してくれ」
イリスは覚悟を問う。瑞樹は返事をためらう。訓練が足りないことが心許なかった。逃げると言われて、顔を上げる。キッ、と、睨み付けた。誰にでも、初陣はある。目の前にいる、この人も。
<戦います>
深い呼吸を繰り返す。肚をくくった、瑞樹は宣言する。相応の覚悟を、イリスは読み取る。
「では、闇を突っつくよ」
<はい。え? 藪?>
「ネネ。裏切り者が出るか、見張って」
「了解」
そっと、イリスは頼む。ネネは腕の中から、飛び下りる。扉に向かった。
イリスは両手を斜め上に伸ばす。手のひらから放つ。深紫色の光の塊を。塊は列を成して、闇を切り裂いていく。慌てふためく、無数の影が見えた。
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