イリスとは、何者か? 6
木の根を飛び石のように、飛んで渡る。遠回りして、下草の隙間の前に戻った。イリスは振り返る。鬼神は仲間の安否を確認していた。通り抜けて、外へ。
「残りの三鬼神が、キースくんへの時間差攻撃を仕掛けましたが。彼は逆さ吊りにしてしまいました」
戻る道すがら、グロシュライトが声のみで報告する。さすが、キース。正規軍の地位をおとしめることはしなかった。イリスは内心褒めた。
「最後に仕留めた獣は、誰の仕業?」
「わたしの口からは、申し上げられません」
イリスが尋ねる。いまいましげに、グロシュライトが答えた。
表情が暗くなる。イリスは察した。鬼神の情報源は、誰なのか。土の中を泳ぎ回っていた獣を放った者と同一。目的は……。ため息を押し殺した。
キースたちの所に戻る。子どもたちがいない。代わりに、大人の鬼がいた。
「大したことではありませんが。一応、伝えておこうと思いまして」
加工場で働いていると、鬼は名乗る。前置きを聞き、イリスもキースも予想した。自分たちが揃うのを待っていたのだ。きっと、関わる重要なことなのだ、と。
「届けられた肉の一部が足りないのです。三つある包みの中で、ひとつの包みだけで。旨味が強い、人気がある部位が。あなた方が届けてくれた時のみで」
鬼が報告する。イリスがキースを仰ぎ見た。かぶりを振る。
「同僚は、落としてきたか。後を追わせないように、使ったのだろうって。でも、自分は気になって。そういう場合、あなた方は、自分たちに知らせますよね」
「そうだね。ありがとう。知らせてくれて。後は、こちらで対処する」
「はい」
鬼が報告を続けた。唇の前に、イリスは人差し指を立てる。鬼の額に、指で触れた。呪文を唱える。障壁で包む。万一、攻撃を受けた場合、術者に跳ね返る。
「では、自分は仕事に戻ります」
「心当たりは?」
「引き留めておくのに必要とする、獣が出た。退治されたけど。狙いは、私じゃない」
「無事で、何より」
安堵して、鬼は加工場へ。見送りながら、キースが問う。イリスは明かす。自分の推測も。察した、キースは苦い顔をした。
加工場の同僚が挙げた事は、起こり得ない。自分たちは気味が悪くて、口にできないが。鬼たちにとって、大切な食糧と知っているからだ。
イリス自身、そんな物を必要とする獣を召喚したくないし。キースが召喚するにしても、自分に相談する。専門家だからだ。
「さて、後片付けのために、帰りますか?」
「ああ」
「グロシュライト」
「はい」
イリスの提案。キースが承諾。グロシュライトに元の世界への扉を開いてもらう。
他の私設武闘団が待っていた。包みを浮かせて。イリスとキースは遅くなったことを謝罪。表情から察した、皆は責めずに包みについてだけ訊く。世界内に運び入れる。全員が世界を出た後。グロシュライトがしっかり閉じた。
「雲がいい!」
「雲の上に乗りたい!」
イリスは家族に断りを入れて、人間の子どもたちを連れ出す。心理的な治療を終えた。希望する、雲の上に乗せる。惑星プレーティンの絶景巡りに向かう。首長が各国に伝えて、騒ぎを未然に防いだ。
「ねえ、ねえ。あれ、買って」
「動画で、流行っているんだ」
遠慮なく、子どもたちはねだる。ネットの動画で見かけた、食べ物を。仲良くなれた印だが、イリスは悩む。政府に請求しようと決めた。家族への土産まで買わされた。かなりのお値段。大満足して、帰ってきた。
「最初にお話しましたとおり、子どもたちが怖い夢を見始めたら。今回の旅の光景に変わるように、細工しました。それでも、うなされるようでしたら、治療を受けさせてください」
「はい。ありがとうございます」
二組の家族に、イリスは説明する。家に帰るのが、一番落ち着くのだが。未知の病に感染している恐れがあるため。しばらく、軍の施設に隔離される。案内して、引き継いだ。
「あれ? キース?」
イリスが驚く。空から、キースが降りてきた。宙に、二つの煉瓦が浮いている。イリスが空中戦の時、足場に使う物だ。先の事件の時、貸し出したのだが。今も、愛用しているらしい。
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