イリスとは、何者か? 3

 体内に、もう一人いる。イリスの推測に過ぎない。かすかに、色が変わっている箇所に、切っ先を当てる。慎重かつ、素早く、生き物をさばく。


 手に伝わる、感触。焼き切っていくため、血は出ないが。肉が焼ける匂いは、他と同じで美味しそうと思ってしまう。すぐに、慣れる。先達の言葉とおり、慣れてしまった。


 居た!


 見つけた、イリスは子どもを引っ張り出す。先に、落ちていった、子どもは雲の上。もとい、雲のような形の昼寝布団の上。どちらの子どもにも、咬み傷ひとつ無い。意識を回復する力を働かせながら。水を呼んで、髪と顔を洗ってやる。


 イリスたちの後ろ。独りでに、白いビニールが包む。肉の塊を。先に、下から。続いて、上から。


「あれ?」


 子どもたちが意識を取り戻す。自分が空にいる理由を思い返す前。雲の上にいる喜びが、上回る。飛行機に気づくと、二人共に手を振った。


 イリスは深紫色の旗を広げた。白抜きで、サソリの模様が描かれた。白い包みを隠して、乗客の意識を反らす目的がひとつ。私設武闘団サソリの宣伝にもなる。


「当機は予定通り……」


 機内では、機長によるアナウンスが流れていたが。私設武闘団サソリの話題で持ちきりだった。


 首都から北に離れた、森林地帯の中。イリスは軍の施設内に、瞬間移動。子どもたちを連れて。包みが後に続く。


「分析班!」


「あたしが待機させていないとでも?」


 イリスが呼び掛ける。室外から、パメラの声が返ってきた。私設武闘団サソリの調整役は、実に有能だ。心の中で、褒めた。


「服を提出してね。薬になるから」


「薬!? いいよ」


 子どもたちを包む、玉の形の障壁を壊す。イリスは理由を伝えて、頼んだ。顔をこわばらせていたが、子どもたちは伸び上がる。承諾した。唾液でベタベタな服なんていらないと言うだろうが。気に入りの服だと断られるので、念のためだ。


 侵入してきた、生き物が新種か。血や体液、肉に毒がないか。軍の担当部署が調べる。あれば、解毒剤の開発につなげるのだ。


 パメラと交代。子どもたちは服を提出。シャワーと着替えを済ませた後。親と共に、心理的な治療(カウンセリング)を受ける。


 イリスも熱いシャワーを浴びて、着替える。同じ種類の服だ。


「あれ? キース、早かったね」


 正規軍の軍人と話をしていた。キースが切り上げて、近づいてきた。


「一番乗りは、うちの隊長だってさ」


 のんびりした口調。キースは後ろを気にしている。イリスの視界に入った。さっきの二人が、キースと仲良くするなというまなざしを向けてきた。陰口を叩いていたのが、想像できる。彼がたしなめてくれたことも。


 一瞬、イリスは鋭いまなざしを向ける。内容も想像できたためだ。文句があるなら、軍を辞めてでも、討伐隊に加われ。軍にいては、皆を守れないとの理由で、私設武闘団を選ぶ人も多い。意味を察したのか、そそくさと離れていった。


「あ~。メルさんの苦労が想像できる」


 サソリの団長が出撃したくて、ウズウズする。見越したシロンが、大臣職を投げ出す。宇宙港の守りに向かった。緊急事態なので、機能が停止するとの考えだろうが。防衛大臣なので、褒められたことではない。


「さて、私たちも向かいますか?」


「ああ」


 分析班から、包みが届けられる。採取が終わったようだ。イリスが提案。キースが承諾する。


「グロシュライト!」


「はい」


 イリスが呼ぶ。姿を現さず、グロシュライトが返事。意を読んで、世界をつなげる。作られた、扉。開いて、二つの包みを通す。キースと共に渡った。

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