イリスとは、何者か? 2

 ミシッ、ミシッ。音が立つ。次の体当たり。壁に亀裂が入る。更に、体当たり。小さな穴が開く。破片が落ちていく。最後のひと当たり。穴は大きく、広がった。体当たりに変えて良かったと、侵入者は己の判断を誇った。


 穴から覗く、楕円形の頭。長い首に続き、ふっくらした楕円形の体につながる。鋭い爪が付いた、四本の脚。長い尻尾。全身がくぐり抜ける。一旦は折り畳んだ、羽を広げた。(地球風に言えば、どでかいトカゲに、コウモリの羽が付いた恐竜?)。


『やったー!!』


『おー!! うじゃうじゃ居るな』


『たーべ、ほーだいだぁ!』


 解放感に浸る声。青い空の下。のびのびと飛ぶ。古里とは、異なる空気を吸い込む。悪くはない。別の個体が、下を見渡した感想を述べる。四本脚を広げて、喜びを爆発させる個体。残りは、吟味する。


『知ってっか? 人間って奴は、彼らにも生きる権利があるって、必ず、討伐を止める奴が居るんだぜ!』


『へ~!』


『自分や家族、知り合いが犠牲になって、やっと、止めた自分が間違っていたと後悔するんだ』


『何それ、受けるぅ』


『軍の派遣を決断するにも、時間が掛かるって言うぜ』


『我らの鱗に、通用する武器はねえ!』


『人間ごときが、我らにかなう訳がねえ!』


『お楽しみまで、どれくらい喰えるか、競争だ!』


『おー!!!』


 侵入者が飛び去った後。黒々とした、大きな穴が残った。


「再挑戦は、させないよ」


 穴の前に立った、イリス。人智を超える力で、修復。緑色の光が広がる。古里に逃げ戻り、再び、攻めてくるのを防ぐ。侵入者の後を追う。


 飛行機に乗った客は、肝を冷やす。窓の外に見えた物に。機体と同じ高さを飛ぶ、巨体の生き物。惑星プレーティンにはいないはずの。通路側の人に教える余裕はあった。


 生き物の頭の先。口にくわえている。服の後ろの襟。人間の子どもと見分けた人から順に、余裕をなくす。


 旋回して、生き物は飛行機に近づく。窓と同じ大きさの黄色の目が覗く。通り過ぎた。


 飛行機に乗っている人たちに見えるように取ったとしか、思えない距離。生き物は頭を上下に振り、子どもを垂直に投げ上げる。落ちてくるところ、180度に開けた口で、待ち構えた。一気に、呑み込んだ。


 異様な光景。血の気が引いた乗客は、凍りついていた。閉じられた、生き物の口。次に狙うのが、自分たちと予想できた。動くどころか、声すら上げられなかった。


 視界に入る、緑色の光。降ってきた。飛行機が飛ぶ高さよりも上から。小さな体の人が。ついた勢いのまま、上げた足を振り下ろす。的確に、急所を捉えたのか。たまらず、生き物は子どもを吐き出した。


 飛行機よりも下。乗客は覗き込んだが、視界を遮られる。白い雲と見間違えたが。広げられた白い布だった。


 生き物は嘘だと思っていた。自分の種族が、人間ごときと協定を結ぶに至った話を。昔、侵入された人間は、異界に乗り込んで壊滅状態にして帰っていった、と。学ぼうとしなかった。自分たちよりも上の力を持つ、人間がいることを。強度の高い鱗を傷つけられる武器を開発した可能性も。


「こいつらの鱗、かってえ」


「どうするよ」


 腰の辺りから聞こえる声。パコッと、音が立つ。提げた、緑色の布箱の蓋が開いたと判る。携帯端末が他の私設武闘団の声を伝えた。


「世界を守る壁に体当たりすれば。どんなに、鱗に強度があっても、無傷な訳がない。見分けて、突けば良い」


 携帯端末を通して、イリスは伝える。腰に提げている物を掴んで外す。視線は生き物向けたままで。前腕部ほどの太さと長さの棒だ。握った棒の片側から、緑色の光が伸びる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る