カクヨムコン10参加作品青天の羽~羽を失った人間と、羽を持つ人間の争い。羽に魅入られた人間が事件を起こす。羽に罪はない Ⅱ
奈音こと楠本ナオ(くすもと なお)
第1話 イリスとは.何者か? 1
壁に突き当たる。衝撃は、壁を伝う。波紋のように広がる。表面だけに、留まらない。内部の空気まで揺らす。
生じた風が伝える。自然とも人工とも言えない種類。突いた主(ぬし)の悪意までも乗せては。受け取る側は、異変と判断する。
恒星ラーズの恵みを受ける、惑星プレーティン。青い空に漂う白い雲に隠された異界。一部の人間(プレーティン種族)は、神さま界と呼んだ。
「はぁ?」
「何で?」
神さま全員が感知。ハッとして、顔を上げる。源の方を向く。何度も繰り返されては、気のせいと片付けられない。
「うちらも身を守る戦いの準備は、必要か?」
「うえ~!!」
一斉に、ウェルフローの方を向く。最強に分類できる。神々は、まなざしで問う。必要ないよね。
「はい。任せてください」
ウェルフローは頷いた。皆、安心して、やりかけの事に戻っていく。普段、旅して回る彼が、偶然、居てくれて良かった。
「イリス……」
ウェルフロー自身は、身構える。警戒を怠らない。不測の事態に備えて。彼は覗く。ヴエルフロウ国を。名前が似ているばかりに、守護を押し付けられた。唯一、本気で、祈りを捧げてくれる子の身を案じた。
惑星プレーティンで、最大の大陸の南端。南海の島々も含めて、ヴエルフロウ国と呼ぶ。首都は一年中、暑いが。今の時期。突然、激しく降り出す大雨に注意。あっという間に、やんでしまうが。
首都で、待ち合わせに便利な奇抜な建物。自国民は、普通に政治の中枢と紹介する。観光客は、返事に困るという代物。中は、冷房が効いているので、羽織物を必要とする。
ちょうど、下院の大会議場で、議員が議論を戦わせていた。投票によって、国民から選ばれた。
議論の合間。汚れが目立たない布張りの椅子が、向かい合って並ぶ中。真ん中の席に座る、若い男が手を挙げる。国によっては、経験が足りないという理由で、候補から外される年齢。ヴエルフロウ国の首長リメキュリアスだ。
「ロゼウスタ補佐官」
「はい」
呼ばれた、ロゼウスタ・エルミレア・イリスは足早に寄る。椅子の間を通って。淡い橙白色の肌に掛かる、黒の短い髪。小さな体を包む、黒の上下。深緑色の丈の短い上着。黒のゴツイショートブーツの厚みのある底。緑色の光が小さく灯る。見詰めても、性別がどちらともつかない。
首長からの問いかけに、的確にイリスは答える。求められて、意見も述べた。
「……」
途中で、イリスは黙る。感知した。異変と呼べる風の流れを。世界を守る壁への衝突。敵の姿も捉える。協定が破られた。割れるのは、時間の問題。渋い顔をする。ヴエルフロウ国に近い。
「ロゼウスタ補佐官。何か、不満でも?」
「侵入者です」
「リメキュリアス首長!」
「すべての私設武闘団に告ぐ。ただちに、出撃せよ」
隣に座る、議員が問いかける。反論があれば、何倍にもして返すつもりでいた。イリスは伝える。首長の命令を聞きながら、議場を後にした。
「正規軍は、治安の悪化を防ぐように。とのことです」
伝えられた、首長の命令。事実上の待機。全軍の指揮を執る、キースの表情が歪む。そそくさと、伝令は離れる。八つ当たりをされたくない。
「ずるいぞ、イリス!」
グッと、怒りをこらえた、キース。代わりに出てきた、うらやましがる言葉。
「一時、職から外してあげるから、行ってらっしゃい」
「いいのか?」
「ランタナくんがいるから、平気よ」
戦略を練る、メルが勧める。予想の範囲内だ。嬉々として、キースが訊く。しっかりしていて、事情を知るランタナの名を挙げた。
キース抜きで、解決した後。ぼやき続けられては、たまったものではない。
メルの脳裏をよぎる。シロンが大臣職を投げ出したら。自分も所属していた、私設武闘団イッカクジュウの団長だった。話を聞けば、彼も向かいたがるに違いない。鳥肌が立ち、頭の隅に追いやった。
「私設武闘団サソリが承った!」
キースが宣言する。彼の傍らに居る人が、深紫色の旗を掲げる。白抜きで、生き物が描かれた。不思議な形だが、サソリという種類らしい。
各所で、旗が揚がる。私設武闘団が向かった。
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