第7話 後日談

 平日の午後。行きつけのカフェは学校帰りの学生やカップルで賑わっている。

 適当なパーカーに身を包んだ村戸は、目の前に鎮座する特大のパフェと、目を輝かせる志谷に苦笑する。

 カップルの偽装なので、2人は300円ショップで買ったお揃いのイヤリングを付けている。更にリアリティを追求し、志谷が徹夜で村戸の為にポーチを作って渡してきた。

 人生で初めての異性からのプレゼントがこれか、と村戸は落胆したが、意外にも志谷の格好や顔がタイプだったので、悪くはなかった。


「いただきます」

「はいはい」


 念願のパフェ。志谷は大ぶりのスプーンでフルーツを掬って、口に頬張る。


「期待以上の味です!」


 それまで仏頂面だった志谷も、パフェを前にしては破顔せざるを得ない。だらしなく緩み切った表情に、村戸は目を見開いた。

 正直、カップル偽装のために出会いからデートまでのシナリオを事細かく叩き込まれた時は、「鬼かよコイツ」と思った。頭の使い過ぎで、今も珈琲しか啜れない。

 けれど、この表情を見て仕舞えば、どれだけ志谷がパフェに情熱を捧げているのか理解できた。

 志谷は美味しそうにパフェを頬張っていく。村戸も少し手伝って、何とか完食できた。


「これで、俺もお役御免だな」


 タイプの異性とデートできたし、もう悔いはない。カフェから駅へ向かう途中に呟くと、志谷はキョトンとしていた。


「何を言っているんですか? カップル限定パフェは、あのカフェ以外にも大量にありますけど?」

「…え」

「言ったでしょう? 私とカップルになって、一緒にパフェを食べましょうと。それは、何も行きつけのカフェだけの事ではありません」

「え」


 偽装はまだ継続中だ。志谷はさり気無く村戸和樹の手を取ると、恋人らしくニヒルに笑った。


「まだまだ、沢山のカフェに行きましょうね? 和樹君」


 全ては、パフェの為に。

 副静音まで理解した村戸は、呆れて声も出せなかった。けれど、一つだけはっきりしたのは、自分はまだ死ねそうにないという事だ。


「…分かったよ。こうなったら、とことん付き合ってやる」

「よろしくお願いします」


 そう言って、二人は固く握手する。

 青々とした秋空。

 偽装カップル誕生の瞬間であった。

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志谷と村戸の通話ミステリ かんたけ @boukennsagashi

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