第7話 7
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私鉄の僕の最寄駅から祐一の最寄り駅まで四つだった。その中間にプラモデルやフィギュアを売るかなりの面積を占める店があったのである。フィギュアとプラモデルの店「ブラザーズ」だった。
その日、改札で待ち合わせて、祐一のアドバイスを受け入れて、ぼくは、ガンダムのフィギュアを購入した。そうして、帰りに祐一の部屋を訪れることになった。
祐一の家は、駅から数分の同じような家が並ぶ建て売り住宅の中の一軒だった。二階の南向きのいい部屋が彼の部屋だった。
「スゴーイ」、足を踏み入れたぼくは目を見張った。ぼくが、目を見張ったのは、大きな等身大の鏡とショーケースだった。鏡は、ドアを開けたほぼ正面にあった。ピッチャーフォームをチェックするためだろう。シャドーピッチングをするのに使うに違いないフェイスタオルが二本ショーケースの上に置かれていた。
ショーケースは三段に分かれていて、一番下の段には、ミニカーが並び、上の二段には、フィギュアが並んでいた。
小学生の時には、ミニカー集めに熱中、フィギュアが中学生になってからのめり込んでいったようだった。
「完成品と自分で組み立てた物と一応区別している」
祐一は、得意そうに言った。
フィギュアの中には色塗り済みと言って色が塗られていて、それをプラモデルのように作成するものがあるが、上の段の物がそれだった。
この日を境に、ぼくたちは、他の野球部員に知れることなく「デート」を重ねることになった。
ふたりで会うのは秘密、これが、自然とぼくと祐一の暗黙のルールになった。
祐一と「ブラザーズ」に行く時、ぼくの気持ちは、祐一に対して恋する女の子になっていた。もちろん、祐一の手前、表面的には、フィギュア好きの男子高校生でしかなかったが、空想の世界では、ぼくは、祐一とキッスをする関係までなっていた。
ぼくが、さらなる殻を破ったのは、フィギュアの商品が凄く充実していると関連雑誌に書かれていた秋葉原の家電量販店に祐一と待ち合わせて行った日だった。
危険な賭けだった。もしかしたら、嫌われるかも知れないという気持ちは、野球の試合中にフィギュアの店に連れて行ってと頼んだあの日よりもずっと多くあった。
それでも、ぼくは、祐一に対する欲望を抑えることが出来なかった。
家電量販店に行くその日、ぼくは、バイオレットかピンク、どちらを選ぶか迷った挙句ピンクの長袖シャツを選んだ。その上からピンクが引き立つようなグレーのジャケットを着こんだ。スラックスは、ベージュ系だった。帽子はいつもの野球帽。それを斜めに被る。けれど、ここまでは、ぼくの中では、許容範囲ではあった。そこから先、机の一番下の引き出しに隠した男性用化粧品を使って、ぼくは、メイクをしたのだった。
ファンデーションを塗り、鼻を高く見せる効果があるというシャドウと目元をぱっちりみせるというシャドーを施した。深みのあるレッド系の口紅を塗った。
家を出る時、母親が、玄関口までやって来た。何か言い、ぼくが顔をあげて答えた時、「あらっ」と声をあげ、ぼくを見つめたが、ぼくは、「派手でしょ?」と言った後に精一杯の冷静さを保って付け加えたのだった。
「最近の高校生、これ位、普通だよ」
と。
「そうなの?」
と母親は聞いて来たが、到底納得したようには思えなかった。
もちろん、普通じゃなかった。幾らおしゃれな高校生だってここまではしない。
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