第6話 6
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フィギュア、ぼくのほとんど関心のない分野だった。その日から、ぼくは、フィギュア関連の雑誌を買うようになった。フィギュアを購入することも決めたのだった。
ぼくのまとまったお金は、正月のお年玉ということになるが、半分程は、トランスジェンダーとしての満足を得るための物の購入に使っていた。
ピンクやバイオレット系のシャツなどの着る物もそうだが、もうひとつ、中学生の時は、知ってはいたが立ち寄ることが出来なかったデパートの男性化粧品売り場に行き、肌を整える乳液や口紅や鼻を高く見せたり目元をくっきりさせるシャドーの類を買ったのだった。
これらを机の一番下の引き出しに隠した。その引き出しには、男子高校生が隠したがるコミックが重ねた。コミック雑誌には、グラビアのアイドル達がなまめかしいポーズを作っている写真が掲載されている。万が一、家族が、ぼくの秘密を探りたいと引き出しを開けても、ぼくが、普通の男子高校生なんだ、と思えるカモフラージュを施したのだった。
母が、買い物に行っている間が、ぼくの至福の時間になった。パソコンを開き、女性の化粧の仕方を見ながら、直径二十センチほどの丸い鏡に向かって化粧をしたのだった。
口紅を付け、シャドーを施すだけで、表情がまるで違って見えた。ピンクやバイオレット系のシャツを着て、ポーズを作った。母親が、帰って来るまでのほんの短い快感の時だった。
そんな日々を過ごす中で、ぼくは、祐一の趣味を知ったのである。貯金が残っていてよかったと、心の底から思った。
フィギャアと言ってもたくさんある。祐一は、どんなフィギュアを好むのだろうか。ミニスカートのアニメの登場人物のフィギュアを集めている男の子もいれば、ガンダムなどの勇ましいのを好む男の子もいる。祐一の場合、多分、後者だろうと推理した。
ぼくは、祐一が、えっと驚く方法で「初デート」の申し込みをしたのである。
十月の土曜日の午後、野球部は、同じ埼玉県内の強豪校とダブルヘッダーの試合をした。その強豪校は、甲子園に出場経験があり、やはり、部員が多かった。そこで、監督同士で話し合い、第一試合は、一年生主体、第二試合は二、三年生主体の試合にしたのだった。
第一試合の先発は祐一で、ぼくはショートのポジションについた。三回に突然、祐一の制球が乱れた。ぼくは、走って祐一の所に行き、
「明日、ガンダムのフィギュア買いたいから、いいお店あったら連れてって」
と、言ったのだ。
「エッ」
口を半開きに数秒の間、ぼくを見下ろした後、
「いいよ」
祐一は、答えた。
他のポジションの仲間がやって来た。祐一は、制球を取り戻した。ぼくは、試合の後、武原監督から、ピンチの時、真っ先に祐一に走り寄り声を掛けたことを誉められたのだった。
祐一は、第二試合の前、周りに誰もいない時を見計らって、ぼくに待ち合わせの場所を言った。
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