第7話 手術中の出来事
目の前が急に明るくなる。
照明が当てられたのだ。
自然と目を閉じ、これから始まる45分の手術に耐えるべく、再度覚悟を決める。
「月本さん、今回の手術だけど、手術項目が増えたから時間も伸びるからね。たぶん90分くらい」
一気に倍ッ!?
ウソだろ……直前になって色々変わり過ぎてんだけど。
しかし、そう言われたら、「わかりました」と言うしかないのがこの状況。
あんたがこの前、もう少しちゃんと診てくれていればそれくらい分かったんじゃ……と
患者はいつだって弱者なのだと骨身に染みた。
鼻の中はやはり神経が敏感なのか、麻酔は想像よりもちょっと痛かった。何度も何度も麻酔を打たれた後に医者に鼻をぐっと押される。
「押されてる感覚はあるよね。でも、痛みはないから」
すでに俺はこの医者に対する信頼というものを失っていた。
だが、ここで頼れるのもあんただけだ。
頼むから、無事に手術を終えてくれ。
手術中、患者の願いはただ一つ。
*
今回の日帰り手術は局部麻酔で行われる。
今になって入院パターン(全身麻酔)にしておけばと思ってもあとの祭りなのだ。
手術から10分が経った頃だろうか。
ようやく鼻の中の骨が剥がされるような音が骨を伝って聞こえてきた。
毎日牛乳を飲んでいるから、もしかしたら骨が硬くて手術が難航しているんじゃないだろうかと不安になってきていたので、手術が進んでいることを実感できて少しだけ安堵の息を漏らす。
【バリバリメキメキ】
【ぐっぐっメキッ】
鼻の中で解体ショーでもやってんのかい。
ってくらい、聞いたことがない音が次々と伝わってくる。
意識は朦朧としていた。
何せ、鼻を中心に麻酔を打たれまくっているのだ。
眩しくて目が明けられない状態なので、ひたすら瞼を閉じて耐え続ける。
「いででで! 先生、そこ痛いッ!」
麻酔があまり効いていない箇所にメスがぶっ刺さったらしい。
あまりの痛みに思わず悲鳴をあげた。
そして、いよいよ手術も終盤。
右目の下に溜まっていると言う蓄膿症の膿をかき出すという工程。
【!!ッ】
閉じた右瞼の裏に「இ」な感じの赤ピンク色の鮮烈な線がぐしゃぐしゃと走った。
これはまさか、右目に何か良からぬことが起こったのでは……
さっきの同意書の起こり得る重大な合併症の箇所に「目の障害:視力障害、眼球運動障害」って書いてあったし……
不安を抱えながらも耐えるしかなかった。
それからも鈍い痛みはたまにあれど、何とか最後まで耐え切った。
「もう終わるよ。やっぱり90分かかっちゃったね」
涙で霞む視界の先に時計を見る。
ホントだ。11時に始まって12時半か。
とりあえずは終わったことに安堵する。
しかし右瞼の裏に感じたあの閃光は気になったままだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます