第2話 手術で優先するのはそこじゃない


「手術かぁ」


 家のソファにゴロンと寝転び、見慣れた天井を見上げる。


 夏に手術は受けたくないと思っていた。

 傷口が化膿しちゃいそうだし、暑いし痛いしなんてのは想像するだけでも気が滅入る。


 実際は夏に手術を受けても傷口が膿むことはないらしいが。


 ただ、その時の俺は少しでも楽に手術を終えたい一心で、涼しくなってから手術を受けようと決めた。


 8月のお盆過ぎ。

 まだまだ暑い。


 このおかしな暑さが続いているうちは、手術のことはあまり考えずに過ごすことにしたのだった。

 


 涼しくなってきた9月下旬。

 ようやく重い腰を上げ、現実(手術)と向かい合う決意を再び固める。



「鼻の中の軟骨を取ったり、骨を削ったりするって言ってたよな。いやー、やっぱ怖えなぁ。まぁ麻酔効いてるから大丈夫なんだろうけど。どれ、近場で評判の良さそうな病院でもチェックしてみるかね」


 独りごちながらスマホをポチポチ。

 現在地から近くの鼻中隔湾曲症の手術を行っている病院を調べていく。



「へぇ、意外とあるもんだね。歩いて行くには遠いけど、電車やバスを使って30分圏内なら5つってとこか」


 そしてさらに調べる。

 すると、鼻中隔湾曲症の手術は日帰りと入院の2パターンが存在することが分かった。



「日帰りと入院ねぇ。どれくらい金額が違うんだろ」


 やはり金額は気になる。

 今まで手術なんて受けることすら考えたこともないので、悲しいくらいに知識が足りない。


 ちなみに都内の相場だと……


日帰り:3~6万円

入院 :20~30万円


 って感じみたい。



「あれ? これならどう考えても日帰り一択じゃね? その日のうちに帰ってこれるならそれに越したことはないし、何より値段が全然違うじゃん」


 これが無知の怖いところである。

 自分に都合の良い部分しか見なかったために、後で悪夢まで見ることになろうとは、この時は思いもしなかったのだ。


 一応、家から30分圏内で入院手術対応の病院を見てみたけど、そこは地元では有名なセレブ病院で、入院一泊最低35,000円とあったのですぐに候補から外してしまった。


 かくして、俺は日帰り手術を選択。

 病院は30分圏内で一番評判の良さそうなところに決定。


 そして10月上旬。

 有給休暇を使ってのんびりとその病院を訪れるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る