第101話F1は考える

 光が宇宙を包んだ。


 F1がその瞬間、分かったことはそれくらいだった。


 大型の剣のような形状の武装を構えたアウターがその剣を一振りしたことで、生じた現象がそれだったらしい。


 まさに一撃だった。


 たった一機のアウターの放った光の柱は、こちらの数万という数のドローンのことごとくを撃墜してみせた。


 F1は息を飲んで粉砕されたドローン兵器の残骸を凝視し、思わず声に出していた。


「……素晴らしい」


 モニターには、剣型の兵器を肩に担ぎこちらを見ているアウター。


 どこか西洋の鎧を思わせる、ノスタルジーを漂わせる機体はずいぶんな高火力を備えていたらしい。


 そしてもう一機。アレはもう月の鹵獲品などと呼べるものではない。


 弓を携えているのは何の冗談なのかわからないが、その性能は見た目以上に非常識の塊である。


 金属と融合する遠隔操作兵器に、実弾兵器ともビーム兵器とも違う気象現象に似た事象を意図的に発生させている武装は、最後の光に匹敵する恐ろしい兵器だった。


「……何なんだあれは? まさか本当に地球外生命体だとでもいうのか? 機体の造形はジャパンのコロニー辺りで作られていそうだが……フフフッ」


 とにかくあの原始的な見た目のアウター2機は驚異的な戦闘能力を備えていた。


 ここまでは、まぁ信じられないが受け入れられなくもない。


 未知の技術があることは、事前情報でもわかっていたことだ。


 しかし見たこともない謎の生命体は恐ろしい数で群体を形成し我々に襲い掛かり、金属を捕食してゆくなんて言うのは、パニック映画の世界である。


 いつの間にか立ち上がっていたF1は、ふらつく体を支えるために椅子に座り直す。


 そして腹の中に重く溜まっていたものを吐き出した。


 情報収集を行い、脳波で飛んでくる味方の報告は、やはりどれもひどく興奮していて理解不能である。



『敵の意識がまるで読みとれません。……おそらく敵は人間ではありません。何らかの指示に従っているようですが……』


『獣の様な何かを隕石群の中に捉えました』


『大量の水と、大気と思われる成分が確認されています』


『私達の脳波ネットワークを妨害されています。これは……コロニーが似た技術を用いていたはずです』


 矢継ぎ早に悲鳴に近い思念が伝わり、混乱は深まって行く。


 そのすべてを受信するF1は、あまりの混沌ぶりに若干あきれた。


「……分析などばかばかしくなるな」


 間違いないのは、この宝探しの旅は成功だということだろう。


 どうせ戦闘を決断した以上は成果を上げなければならない。


 そして、F1は解析可能なごくわずかな情報から突破口を導き出していた。


「だが収穫もある、おそらくあの訳の分からない化け物どもを操っている要はあいつだ。そこを押さえれば、無力化できる可能性はある」


 同種だからこそわかる、この戦場の要。


 どうやっているのかは知らないが、あの宇宙を駆ける生物から情報を共有し、こちらのネットワークにすら干渉している。


 彼らの使っているものが自分たちの能力を発展させたものだと感じ取れたのは、彼女がF1タイプ故だろう。


 剣のアウターは脅威だが、数の優位を覆す可能性があるのは大きい。


「―――全軍に通達。報告にあった月人を攻撃する。敵はF3タイプだが脳波干渉の出力はお前達が上だ。F2、貴様に“フィンヴァラ”を貸し与える。例のF3を仕留めてみせろ」


『はい。了解しました』


 返事をしたF2は発着デッキですでに戦闘準備を開始しているだろう。


 機体を与えたF2個体は、イレギュラーF3に助けられたことがある。


 あのF3が、敵対するまでに自我を取り戻しているとしたら何らかの反応があるかもしれない。


「さぁすべてをさらけ出してくれ。異星人君」


 もはや、全滅でさえ価値がある。


 F1は手を伸ばし、コロニーを眺めて笑みを浮かべていた。

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