第3話異世界を作ろう
「お騒がせしました。どうやら僕は命の危機でそれなりに精神的ダメージをおってしまったらしいです……」
僕は頭を下げる。
結果から言うと、シュウマツさんが作り出した大気に問題はなかった。
ただ問題があったのは僕のメンタルの方だ。
ヘルメットを外すと、眩暈と吐き気が襲う。
何でもいいからとりあえず被り物をしていたら、ひとまずは落ち着くらしい。
ヘルメットをつけたままぶちまけなくて本当によかった。
というわけで外気はあるのに、僕はしばらく宇宙服がお友達になるようだった。
「なんだかなぁ。我ながら情けない話だなぁ」
ハァと長いため息を吐いて座り込む僕に、生身で見ると迫力のあるスイカサイズのシュウマツさんはホッとした調子で言った。
「無理もないさ。死というのは生き物にとっては恐ろしいものだよ。その程度で済んでむしろ幸運だったのかもしれない。完全に助けられないのはすまないと思うが」
「シュウマツさんが謝る必要なんてどこにもないよ。むしろ感謝しかないなぁ。それよりも、この場所の事が気になるよ。空気がうまいなんて感じたのは初めてだ」
「うむ。そちらはうまくいってよかった」
「いや、素直にすごい。どうやってこんなものを作ったのか、聞いてもいい?」
僕は今いるこの場所を見回してつい好奇心で尋ねてしまった。
何もない岩ばかりの場所だが、そこはやはりスペースコロニーの様で綺麗に大地に区画の境界があり、天井がある。
宇宙が見える透明の天井は、よく見ると弧を描いていて、天井の向こうには巨大な建造物が見えていた。
ドーナツ状の居住区が、中心の建造物の周囲をぐるりと囲む円環状になっているのは、僕が見せたコロニーの資料通りのようだった。
いったいどうやってこの施設を一瞬で作り上げたのか? それはまるで魔法のようだと僕は思った。
「もちろん魔法の力だよ。それでも中々苦労したがね」
「へー……そうなんだぁ」
平静を装ったが……とんでもないことを言わなかったかいシュウマツさん?
今、魔法と言ったかな? いやまさかそんなことはと思いつつ、いったん僕は保留にしておいた。
反論するにも順序というものがある。
一拍置いて、僕は深く息を吸ってから、会話を再開した
「と、とにかく助かったよ。じゃあ改めて、君のことをなんて呼べばいいだろう?」
「シュウマツさんで構わないよ。言っただろう? 名前はもうなくなってしまったからね」
反応に困ることを言うシュウマツさんは若干悲しそうな気がした。
とても気になったけれど、詳しくは聞かないでおく。
なるべくならこの命の恩人が嫌がることをしたくはないし、差し迫った死を回避した以上、時間はこれからいくらでもあるだろう。
「じゃあ、シュウマツさん。命は助かったけれど、これからどうしようか? なんだかすごいものを作ってしまったみたいだけど。何かやりたいことがあるんじゃないかな?」
到底理解は及ばないが、今ここに普通に生活できる環境が作られているのは間違いない。
そして僕を助けるためだけならこんな巨大な建造物を作る必要はないはずだ。
その辺り何か狙いがありそうだと思ったが、実際そうだったようである。
「うん。実は君を助けることもだが、私もコロニーを興味深く思っていてね、もし君に今後具体的な予定がないというのなら……私に付き合ってもらうことは出来ないだろうか?」
「シュウマツさんに?」
「そうとも。私はここに根を生やして、元居た場所を一部でも再現したいのだよ。でもどこかの星でそんなことをしたらとても迷惑がかかると思うんだ」
「うんまぁ……程度によると思うけど、確かに?」
「その点、君の世界のコロニーなら、こちらの皆さんに迷惑をかけないようにすることも出来ると思うんだよ」
「ああうん。まぁ……誰もいないんだから誰かに迷惑かけようもないとは思うけど」
「だろう? だが見ての通りここはまだ何もない不完全な場所だ。だから、完成に近づけるために君にも手伝ってほしいのだよ」
あまりにも突拍子もない提案に僕は唸った。
「うーん。僕が役立てることはあるかなぁ?」
正直シュウマツさんの言うことすらあまり理解できないのだが、なぜかシュウマツさんには僕の手が必要になる当てがあるようだった。
「あるとも。何せ私は動物の視点が欠けているのさ。植物だからね。君達のために作られたものを一番うまく扱えるのは。君たち以外にあり得ないと思うんだよ」
「そ、そうかなぁ」
シュウマツさんから感じるのは、隠しきれない期待だった。
僕自身は、特に今絶対にしたいことがあるわけじゃない。
こんな場所にいるのも天涯孤独の身だからだし、先ほど職場も失ったばかりだ。
是が非でも今すぐ帰らなければならない理由は、残念ながら存在しない。
ならば命の恩人の言葉に乗っておくのも悪くはない。
「……いいよ、シュウマツさんには恩もあるし」
それに妙に拒否感はなかった。
シュウマツさんはどこか嬉しそうに答えた。
「お願いしたい。君に『こちらの世界』の話をもっと聞かせてもらえるととてもうれしいよ」
「……なるほど」
僕は頷く。
ただ、あんまり詮索しないようにしようと決めた直後に大変申し訳ないのだが、そこまで匂わせられると、一応聞いておかねばならない。
僕は意を決し、シュウマツさんに尋ねていた。
「ちなみに……シュウマツさんってどこから来たの?」
「言ってなかったかね? 私はどうやらこことは違う世界から来たらしい。いわゆる異世界というやつだよ」
「へー……」
シュウマツさん……君はとてもあっさりと爆弾を落とすのだね。
人生とは何が起こるかわからないとは言うけれど、今の僕ほど不可思議な体験をしている人間はそういないだろう。
僕はこの宇宙の果てで、ずいぶん面白い友人と出会ったらしい。
そう言えば、大型の実験船が消え失せるほどの大事故の原因は何だったのだろうか?
実験の中には、ワープ航法を実現させるための技術もあったと聞くが……ひょっとして何か関係があるのかな?
まぁその答えはきっと、今はどこにもない気がする。
ともかく僕は少なくともコロニーをデータだけで作ってしまうような存在を知らない。
シュウマツさんはひょっとすると魔法なんかもある世界から来たのかな?
僕は納得は出来なかったがとにかく好意的に解釈して、かろうじて理解を示すのが精一杯だった。
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