オレは・・・

 朝の霞んだ青空が目に入った。オレは外で寝ていたようだ。起き上がると、目の前には光を反射する海が見えた。海の見える丘の草原にいるらしい。

 着ているのは着物。寝ていた枕元には日本刀らしきものが2本と頭にかぶる笠が置いてあった。他の持ち物はないらしい。


「よう!起きたか!」オレの背後から声がした。

「ん?」オレは振り返った。そこに居たのは筋骨隆々のネコの獣人?かな。

「よし、起きたんなら一勝負だ!」ネコは胸をバンバン叩いた。ゴリラかよ・・・。

「何やるんだよ?」

「相撲に決まってる」

 オレは何故に朝から相撲で勝負なんだと首をひねった。


 オレたちは丘の上に移動した。そこはむき出しの土の上に丸く線が書いてあった。なるほど土俵である。今までの展開だと、クマが出てきて相撲して家来になるんじゃ無いかと思うのだが、ネコだしな・・・。

 オレはネコと向かい合い、相撲が始まった。

『ガツン・・・・』ネコ、強えええええ。筋肉はダテでは無いようだ。

 オレは『負けられるか!』と力を込める。一進一退の押し相撲。最後はオレの上手投げで勝ち。

「今回も負けか・・・」ネコは残念がっていた。


 オレたちは寝ていた場所まで戻って、ネコが採ってきたという、朝飯がわりの果物にパクついた。

「メシ食ったら、釣り行こうぜ!魚が食いたい!」と、ネコが言う。

「あぁ、いいよ」

 オレたちは丘を下り海辺へ向かっていった。

 海辺には松が植えられ防風林になっているようだった。松林を抜けると白い砂浜が目に入った。

「キレイは所だな・・・」

「おうよ!何でも此処には天女も遊びにくるらしいぞ。一度はお目に掛かりたいもんだ」

 天女か・・・じゃぁ、松に羽衣はごろもを掛けて水浴びでもするのかな。それならオレも見たいと思う。


 浜辺を歩いていると子供たちが集まって何か騒いでいるようであった。

「何してんの?」オレは子供たちに声を掛けた。

「生意気なカメを成敗している。ん?何だオッサンらは?」と、子供たちのリーダーっぽいのが言った。

「オッサンって・・・。お前らから見ればそう何のか?まぁいい。ほれ、これやるからカメを放してやれ!」オレは懐からアメを取り出し、子供たちに渡した。

「アメちゃんかよ」と、リーダーは言い、アメを受取り、去っていった。


「大丈夫か?」オレはカメに問いかけた。

「危ういところを助けていただきかたじけない。拙者せっしゃ竜宮城りゅうぐうじょうに努めているカメでござる」と、カメは返した。

「話せるのか?竜宮城ねぇ?」

「助けて頂いたお礼に竜宮城にお連れ致す。背中につかまりなされ」

 オレは、話の急展開についていけなかった。オレはネコを見た。ネコは頷いている。

「んじゃ。ちょっと行ってくる」オレはネコに言い、カメに掴まった。


 カメに掴まって海に入ったと思ったら、すぐ竜宮城に着いた。まぁ、夢だし、良いんだけどね。

 竜宮城は海の谷の様な所にあり、周りは色とりどりのサンゴ礁の樹海に囲まれていた。竜宮城は、大きな門があり、奥に赤い屋根に神社のような造りだった。門前には魚の顔をした衛兵が立っていた。

 カメからの事前連絡はないと思うけど、衛兵に何も言われずに竜宮城内に入れたが、『ここのセキュリティは大丈夫なのだろうか』とオレは思った。

 建物の前に着くと、色鮮やかは着物を着た人が出迎えてくれた。中央には、ここの主だろうと思う煌びやかな女性が立っていた。

「カメを助けていただきありがとうございます。私、ここの主のオトヒメでございます」と女性が言った。

『オレ、騙されてない?』と思うのだが、カメが事情を説明したという事にしよう。

「ご丁寧にありがとうございます」オレは答えた。


 広間で宴が始まった。カラフルな魚が舞い踊る。

 その時、オトヒメが「私、もう直ぐ月に帰らなければなりませんの」と言った。オレは色んな話が混ざっていると思うのだが「月は遠いですよ」と返した。

「いえ。月町という所です」

「・・・」オレは何とも言えない表情だったと思う。言い方が紛らしい。


 宴が終わり、カメがオレを送ってくれることになった。カメに掴まり、浜を目指した。

 浜に着いたカメは、『どちらのお土産が良いですか?』と、小さい箱と大きい箱を差し出した。カメのお土産と言えば煙の出る箱のはずだが、オレは持ち運ぶのに不便だと思ったので小さい箱を選んだ。

 カメはオレの選択に感動し、金と銀の別の箱を差しだし、どちらも持って行ってくれと懇願してきた。小さい箱と同じサイズが2個に増えてしまった。オレは2個受取り、ネコが釣りをしている浜辺を目指した。


 ネコは川が流れ出ているところで釣りをしていた。

「ただいま」と、オレはネコに言った。

「よう。おかえり」ネコは手を上げ、迎えてくれた。「何だそれ?」とオレが持っている金銀の箱を指差してきた。

「カメがお土産だってくれたんだよ。中身は知らないけど、お前にやるよ」オレはネコにお土産を差し出した。

「おう。ありがとう」と、ネコは受け取った。

 その後、ネコが釣った魚を焼き、昼飯となった。


 オレは腹が一杯になり、暖かな日差しを受け、釣りを再開したネコの隣で眠りについた。

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