オレは王子
「王子。朝でございます」
誰から呼ぶ声がしてオレは目を覚ました。何だかものすごく豪華な部屋にいるようで、ベッドの上にも天井が付いているようだった。オレを起こしたのは、いつものネコ執事。
「ここは?」オレはネコ執事に聞いた。
「王宮の王子の私室でございます」とネコ執事。
なるほど、今度は人間かとオレは思った。
ネコ執事に案内され、オレは私室を出て王宮を歩く。私室には洗面所や浴室が備えられ、メイドがオレの装いを整えてくれた。そしてオレは朝食を取るために食堂へ向かっているのだが、これが長い。廊下には絵画や高価そうな壺が並べられているがオレには良し悪しが分からない。廊下の絨毯は歩きにくいぐらい毛足が長く、天井は高く、そこにも絵が書いてある。何と言うか無駄に豪華な作りだ。
食堂に着いたが、『これでもか!』と言う長いテーブルで椅子もいくつあるのか分からないのが2列。オレは端の上座と思われる所に案内され着席した。出された食事は見覚えのある、焼き鮭、目玉焼き、海苔、漬物、味噌汁、ご飯という、『どこの温泉宿だよ?』という食事だった。まぁ上手かったからいいけど。
食事中にネコ執事が今日の予定を話してくれた。
「王子。本日は舞踏会の日でございます。夕刻、舞踏会の衣装にお着替えを頂きます。そして、王様よりのお言付けですが、『舞踏会にお越しになる淑女と知り合いになり、早く孫の顔が見せろ』との事でございました」
目覚めたと思ったら、早速、舞踏会というイベントが発生した。これは何のお話しだろうとオレは考えた。夕刻から始まる舞踏会で思いつくのは『カボチャの馬車』しかない。オレは舞踏会が終わった後に人探しかなと思った。
夕刻、『誰だよ?』という白にパンツに青を基調にしたフリフリの一杯ついた上着を着せられた。帽子には何かの白い羽が付いていた。
「良くお似合いです」メイドが言った。
「うむ。ありがとう」オレは『〇〇バラか?』と思ったが、着せてくれたメイドに悪いので言わずにいた。
舞踏会と言っても踊らなくても良いらしい。オレは色々な人と話をした。全然、覚えてないけど。ただ、1人だけ目を奪われた女性がいた。彼女は他の人と違い、謙虚で優雅だった。オレは彼女との会話を楽しんだ。オレは彼女のことをもっと知りたいと思った。舞踏会が真夜中になると、彼女は帰ろうとしていた。オレは追いかけるが、彼女は消え、ガラスの靴が片方だけ残されていた。
翌日、オレは彼女のことを忘れられず、片方のガラスの靴を頼りにネコ執事に探すように命じた。ネコ執事は王国中を探したようだが、彼女は見つけられなかった。
ネコ執事はオレの傷心を慰めようと、ピクニックを企画した。馬で遠出して気分を変えて欲しいというネコ執事の思いやりが伝わってきて、オレはピクニックを了承した。
オレとネコ執事が同じ馬車により、メイドや料理人は別の馬車、護衛が騎馬で付いてきた。
森の外れを通った時、森に住む小人族の木こりが7人、何かを担いで歩いていた。馬車はその脇をゆっくりと通り過ぎようとした時、オレの目にガラスの棺に入れられた彼女が目に入った。オレは急いで馬車を停車させ、棺に駆け寄った。
「この人は・・・」オレは小人族に聞いた。
「この人は、ワシ等の世話をしてくれた優しい女性でした。ある日、ワシ等が仕事で出かけた隙に何者かが、この人に毒を盛ったらしい。その日からこの人は目覚めません。王子様、どうかこの人をお救い下さい」と、小人族はいった。
オレはネコ執事に目配せをした。ネコ執事はオレに耳打ちする。
「王子。王子がこの方に口づけをすると意識が回復します」
「えっ?」口づけどころか、オレは妹以外の女性の手も握ったことないのにと思った。
オレは小人族に棺を安置させ、蓋を開けさせた。そして前かがみになり、彼女の顔に近づいた。オレの心臓が『ドキドキ』と五月蠅くなっていた。そして口づけをした。彼女は目を覚まし、目近でオレを見た。彼女は動揺し、『キャーーーー』と叫び、オレを付き飛ばした。そして、オレは近くの地面に倒れ、石に頭をぶつけた。
オレは意識がだんだん遠くなるのを感じた。
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