オレは鬼

「ん?何だここは?」

 オレが目を覚ますと、視界に入るのは薄暗い明かりに照らされた、洞窟の様なごつごつとした岩を掘った穴倉のような所だった。

「お頭様。ここは鬼ヶ島です。もうすぐモモタロウ軍が攻めてきます」

 驚いたオレに、近くにいたと思われる執事風の衣装を纏った、ネコ耳を付けた紳士が答えた。

「・・・」

 オレは『この人は何を言っているのだろうか?』と思った。執事をよく見ると、ネコ耳が左右に回っている。しかもシッポも微かに揺れていた。付け耳や付けシッポではないらしい。

 オレの疑問顔を察したのか、ネコ執事が状況を説明してくれた。


 ここ鬼ヶ島は、静かで平和な島で鬼族が住んでいました。鬼族は人間たちと異なり、力と勇気が尊ばれる氏族。しかし、鬼族は決して悪ではありませんでした。鬼族の生活は単純で、日々の食事と仲間との絆で満たされていました。

 ある日、桃から生まれたという人間の子供、モモタロウが現れました。彼は鬼族を「悪」と決めつけ、戦いを挑んできたのです。鬼族はただ自分たちの家や家族を守るために戦っただけ。しかし、モモタロウは強かった。彼は動物たちと共に鬼族に立ち向かい、鬼族の多くが倒されましたが、前回はモモタロウを退けました。

 そして今回、モモタロウ軍の2次侵攻が始まったのでした。前回よりも軍勢を多く従え、鬼ヶ島を目指して出港したとの情報を得ました。


「で、オレたちに勝算はあるのか?」と、オレはネコ執事に聞いた。

「モモタロウ軍は約2万。こちらは十全に動ける兵は5千です。島に上陸されれば鬼族は蹂躙されるかと思われます」ネコ執事は答えた。

「だめじゃん・・・」オレは落胆した。


「そうだ!モモタロウとオレの一騎打ちはどう?オレが勝てばモモタロウに退却してもらって、オレが負ければ鬼族の財宝を渡す、ってどうかな?」

 オレはネコ執事に提案した。

「モモタロウが承諾すれば問題無いと思いますが、モモタロウが裏切った場合は?」

「その時は、どちらかが居なくなるまで徹底抗戦しかないよね・・・。取りあえず、モモタロウと交渉してもらえるかな?」

「畏まりました。行ってまいります。暫くお待ちください」

 ネコ執事はオレの前から静かに出ていった。


 しばらくしてネコ執事が戻ってきた。

「お頭様。交渉してまいりました。モモタロウは一騎打ちを承諾いたしました。負けた場合は退却。勝った場合は財宝を持ち、国に帰るそうです」

「そう!良かった」

「本当に宜しいので?負けた場合、お頭様が死ぬ場合がございます」

「いいよ。1人は皆のため、皆は1人のためさ」

 オレは虚勢きょせいを張ってみた。たぶん、これはオレの夢。死んでも何とかなるんじゃないかと言う打算もある。


 その後、軍議というか決起集会というか、開催された。オレは雛壇の一番上の玉座に座り、オレの後にネコ執事が立ち、1段低い所に赤鬼、青鬼の参謀、その下段に隊長格の5人の戦士、そして広間には5千の兵士が並んでいる。

 オレには何を言っているのか分からないが、参謀が今回の戦いの概要らしきものを説明している。そして、オレの話の番になった。

「1本の矢なら簡単に折れてしまうが、3本束ねれば簡単には折れない。3本の矢のように力を合わせれば鬼族は安泰だ」とオレは覚えていた矢の話をして締めくくった。

「「「ウォォォォ!!!」」」広間の鬼族から歓声があがった。


 オレはネコ執事に今後の事を話した。オレは、金棒かなぼうはもちろん、剣も触ったことが無い。オレはモモタロウに負けるだろう。オレが居なくなった後、鬼族が不利にならないようにネコ執事にモモタロウとの間を取り持つようにと話した。


 モモタロウ軍は島の東側に集結していた。1槽小舟が島に上陸する。モモタロウとお付きの動物たち。

「一騎打ちとは剛毅よのう。この俺様に勝てるとでも?」

 モモタロウが挑発してきた。

『こいつは、昔話にあるような善良な桃太郎じゃないな』とオレは思った。

「モモタロウとか言う、小悪党はお前らか?交渉の約束は覚えているんだろうな!」

 オレはモモタロウの挑発に挑発で返した。モモタロウと獣たちが激怒する様子が良く分かった。

「ふん。鬼のくせに。宝は用意してあるんだろうな」

「もちろん!そこにある」オレは宝箱を指差した。


 広場でオレとモモタロウは向かい合った。オレは金棒。モモタロウは槍を持つ。金棒は当たれば強いが、モモタロウの動きを見るに当てるのも難しそうだ。オレ、何でこんな事してんだろう?とは思うが、もう、後には引き返せない。


 一騎打ちが始まった。

 モモタロウの突きを金棒を振って反らす。アレ?オレって意外とヤレてる?なんて思うが、長くは無理だろ。モモタロウの突き、払い、旋回を何とか躱したり、金棒を振り回したりして防いでるけど、もう無理。モモタロウに金棒が当たんねぇ・・・。

 そして、オレはモモタロウの突きを躱し切れずに胸に受けた。オレの感覚として背中にまで抜けた気がする。


 オレの意識が遠くなって、目の前が暗くなっていく・・・。ムムム、無念・・・。

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